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亡命編 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第五十六話 第七次イゼルローン要塞攻防戦(その6) 
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出来るから何でも一人でやろうとする。准将の悪い癖です」

そんなつもりは無い、手伝ってくれる人間がいればと何度も思うさ。だがラインハルトの恐ろしさをどう説明すれば良い? 彼が皇帝になるなどと言っても誰も信じないだろう。

「ヤン准将を高く評価しているから歯痒い、違いますか?」
「そうですね、でも仕方ありません。ヤン准将はそういう人なんですから」
「そうやってまた自分を抑える」
「……」

サアヤは今度は困ったような笑みを浮かべた。
「グリーンヒル中尉も心配しています」
心配? フレデリカが俺を? なんかの間違いだろう? 俺は訝しげな表情をしていたのだろう。サアヤがおかしそうに笑った。

「そうじゃありません、彼女が心配しているのはヤン准将の事です。准将がヤン准将を何時か排斥するのではないかと心配しているんです。怖がられていますよ、ヴァレンシュタイン准将。准将がそうやって自分を抑えてしまうから……」

馬鹿馬鹿しい話だ、何で俺がヤンを排斥する。ヤンの事が好きだからと言って俺を敵視するのは止めて欲しいよ。対ラインハルトの切り札を自分で捨てる馬鹿が何処にいる。

「そんな事はしませんよ、ミューゼル中将と互角に戦える人物が同盟にいるとすればヤン准将だけです。私はミューゼル中将にもヤン准将にも及びません。私はヤン准将の力を必要としているんです」
俺の言葉にサアヤは可笑しそうに笑った。
「准将だけです、そんな事を言うのは。他の人は准将ならミューゼル中将に勝てると思っています」

阿呆が、俺は天才じゃない、原作知識を上手く利用しているだけだ。どいつもこいつも何も分かっていない、俺は独創性なんぞ欠片もない凡才だという事は誰よりも自分が一番良く分かっている。

「ミハマ少佐もそう思いますか?」
サアヤはちょっと困ったような表情を見せた。
「さあ、私には分かりません。准将の言葉が外れたことは有りませんけどミューゼル中将の天才を見たことも有りませんから」
「……」

そうなんだよな、まだラインハルトの天才をほとんどの人が知らない。原作だって彼が天才だと皆が認識したのはアスターテ以後だ。俺が騒いでも深刻にはとられない。何人かが認識し始めた、そんなところだ。それでも原作よりはましではある。ヤンもまだラインハルトの天才を本当に認識しているとは言い難い。だから何処か切迫感が無い。その事が余計に俺を苛立たせる。

「ヤン准将ですよ」
サロンの入り口にヤンが居た。困ったように頭を掻いている。やれやれだ、向こうも謝りに来たらしい。ワイドボーンに何か言われたか……。さて何と言って謝るか……、サアヤがにこにこしている。何となく面白くなかった。



宇宙暦 795年 5月 7日 19:00 宇宙艦隊総旗艦 ヘクトル  フレデリカ
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