青頭巾
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「そんなトップシークレットを飛縁魔はどうやって…」
「ターゲットの医師に、愛人と思い込ませて近づいたらしいねぇ。怖い女だよ」
「全くだな」
「…そしてこれが『邪恋』の正体だ」
死体を愛好する『ネクロフィリア』という性的嗜好があるが、それを更に歪めた『母と胎児の遺体』への性的衝動こそが、彼の邪恋だった。そして更に、その歪んだ欲求は性交渉によって満たされるものではなかった。
その欲求は恐らく、胎児を食らうことで満たされる類のものだった。
「待て」
「ん?」
「飛縁魔が取り入った医者は、そんなディープなとこまで把握してたのか!?」
「いや。…俺が、飛縁魔が拾って来た噂話をもとに、地下室の献体を検めた」
「胎児が食われていたのか?」
「地下室の胎児はそのほとんどが、臨月の状態で死亡している。体の状態はちょっと早産の赤子と全く違わないんだが」
全部、心臓を抜かれているんだよねぇ。そう云って奉はくっくっく…と低く笑った。
「あとはそうだねぇ…自己申告」
「自己申告!?誰が!?」
「地下室の子供達がねぇ…」
云いかけて、奉はふと口を噤んだ。
地鳴りのような音を立てて、岩戸が開き始めていた。
俺は立ち上がって身構えた。あの岩戸の音は縁ちゃんではない。縁ちゃんは小さい頃から書の洞に関わってきたので、この岩戸の癖を知り尽くしている。こんな轟音は絶対に立てない。
続いて、かつ、かつと革靴で岩肌を踏みしめるような、ゆっくりと刻む足音が、洞内を満たした。…鴫崎でもない。あいつはスニーカーでバタバタ足音を立ててやって来る。
「おい、来たかこれ」
「…早かったねぇ」
気のせいだろうか。奉の額に小さな汗の玉が浮いている。奉の『冷や汗』など、俺は見たことがあっただろうか。
「…鎌鼬を出すなよ。ここで死人を出せないぞ」
無意識に意識を背中に集中させていたことに気が付き、慌てて緊張を解いた。…最近俺は、鎌鼬に頼り過ぎている。
やがて、足音は本棚の影でぴたりと止まった。
「ごきげんよう…と、声を掛けたら良いのかな」
ぐっ…と声が詰まった。
俺は心のうちに狂気を秘めたその医師を、その外見を、映画で見るような極端なサイコパスのように勝手に想定していた。
しかしこの、本棚の影に立っている男を俺は知っている。
鴫崎の嫁が臨月の時、頼み込まれてその病室に詰めていたときに診察に来た人のよさそうな若い医師だ。俺はこの医師に当たり前のように接し、軽い世間話までしていたではないか。
「…だから鎌鼬を出すなというのに」
―――しまった、また無意識に鎌鼬に頼ってしまっていた。俺は再び、ゆっくり緊張を解いた。
「この洞には限られた人間しか出入りをしていないし、知る人間すら両手に余る程度だ」
思っていた
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