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霊群の杜
青頭巾
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ような祭事で、本当に見染められてしまった娘が居た。
娘は忽然と神輿から消え、数日後、山中で発見された。…何者かの子を孕んだ状態で。


「それが、始まりの邪恋か?」
「馬鹿め。真似事の祭事だろうが何だろうがこれは正式な婚姻だ。『邪恋』は、その後だよ」


孕んだ娘の帰還は周囲に波乱を巻き起こした。両親は必死で相手を問い質したが、娘は『山の神』としか語らない。その件はひっそりと事情を知る人間達により黙秘され、その胎児も葬り去られるはずだったが、娘は頑なにそれを許さなかった。
腹の子は驚くべき短期間で臨月を迎え、やがて娘は秘密裏に例の病院に担ぎ込まれた。


「そして、母子ともに死産。俺が辿れたのはここまでだ。娘の両親が秘密裏に腹の子供を葬ろうとしたのか、そもそも生まれることの出来ない子供だったのか。ただ腹の子の死に引っ張られるように、母も死んだ。母の死は純粋な事故だ。それだけは間違いなさそうだねぇ」
「邪恋どこいったコラ」
「ここから始まるんだよ。…ぞっとする邪恋だろう?」


死んだ娘の腹から出て来た胎児は、思わず息を呑むような奇形だった。異様な形に突き出し、変形した巨大な肩甲骨に、血の混じる羊水に濡れた羽毛がびっしりと生えている。顔も左右非対称に、叫ぶように歪んでいた。両親は娘を亡くした悲しみも忘れ、思わず呟いたという。
「あいつ、何の子を産もうとしたんだ…?」
ここからは若干、俺の推測も入っているんだが…と前置きをして、奉は語る。


本当は子供は、産声をあげたのではないか、と。


そしてそれは『屠られた』。恐らく知能の遅れを伴うであろう奇形を抱えて生きていくその子の今後を憐れんだのか、嫌悪感に耐えられなかったのかは分からない。だが、胎児は『死んだ』。そして母子の体は孫殺しの事実を葬る交換条件として『献体』されたのではないのか。…そうでなければ、可愛がって育てた美しい娘を、胎児もろとも献体する理由が分からない。


「ドナー登録してたんじゃないのか」
「この『始まりの母子』に関してだけは、ドナー登録は無いんだよねぇ。ただ、貴重な医学的なサンプルとして病院側が遺族に頼み込んだらしきことしか…母親はともかく、あの奇妙な胎児にはその理由はある」


今回の件は、飛縁魔に調べさせたらしいのだが…
始まりの母子を担当したのは、その後例の病院を継ぐ予定の若い医師だったという。
どうにも昼行燈で、何を考えているのかよく分からないその医師は、始まりの母子には異様な執着を見せた。同僚の医師達は言葉に出来ない気味悪さを感じたらしいが、将来総合病院を継ぐ若い医師に、何も意見する者はいなかった。医師達の間では、地下室の献体に関しては半ば都市伝説的に知れ渡っている。誰も表立っては口にしない、公然の秘密だ。


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