青頭巾
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、被害を訴えた方がおかしい奴だと思われるのだ。ならば、奉はなす術なく呪いを食らい続けるしかないのか。
移動させた本棚に古書を詰め、冷えた掌をすり合わせた。
「…寒いなぁ、今年も」
「…こたえるねぇ」
元々、ぼそぼそ喋る男だが、更に声に張りがない。暖かい茶を盆に乗せて入って来たきじとらさんが、盆を炬燵の上に置いて毛布のようなものを奉に掛けた。全身かじかんでぎこちない動きになっている俺達とは違い、きじとらさんは滑らかに動く。優雅な仕草で置かれた茶がほわりと湯気を揺らめかせた。
「この時期はすぐに冷めますから」
云われるまでもなく、俺は炬燵に入り込んで茶を手に取った。かじかんだ手には湯呑の熱が灼けつくようだ。だがそれがいい。茶をすするついでに俺が持ってきた安物の饅頭を頬張っていると、奉も饅頭を手に取った。食欲は少し戻って来たようだ。
「まぁ…手詰まりなのは、向こうも同じなんだよねぇ」
饅頭を一口で頬張って飲み下すと、奉は湯呑を手に取り一気に呷った。きじとらさんが云ったとおり、茶はこの短い時間ですっかりぬるくなっていた。
「拝み屋の世界は、非常に狭くてねぇ。今回のことが拝み屋連中に知れ渡るのは、時間の問題なんだよ」
猫鬼のような邪法に手を出した報い…奴ら自身の戒めとしてねぇ…と、ぼそぼそ呟いて奉は顎を炬燵に乗せた。
「この近辺で代わりの拝み屋を探しても、もう見つかるまいよ。よそ者の拝み屋を呼ぶことは出来ようが…同じことの繰り返しだねぇ」
やはり俺は考えが表に出やすいのだろうか。俺の懸念を読み取ったかのように、奉はにやりと笑った。
「簡単に殺せないよ、俺は」
それでも。ぎりぎり死ななかったとしても、奉を屠る試みは終わらないのじゃないか。
「あの地下室の奥に、特別に敬意を払われた水槽がある」
奉の声に、はっと我に返った。
「――敬意」
さっと記憶を探ったが、思い出せない。そもそも俺はあの水槽を直視していない。
「円筒型の綺麗に磨かれた水槽に、美しい母親と」
―――天使が、へその緒を繋いだまま浮かんでいる。
「天使」
「奇形児だねぇ。翼のような肩甲骨の奇形と羽毛と見まがう体毛。随分と『やり過ぎ』なくらいの奇形だったよ」
「お前もよくそんな…」
「ありゃ、異種交配だ」
「は!?」
「土地神に娘を捧げる風習が、この地域には根強く残っている。…この件の始まりはだな結貴、ある『邪恋』なのだよ」
奉は奇妙な昔話を始めた。
俺も『地方の昔話』程度の知識はあるが、この地には山の神に娘を『花嫁』として捧げる風習がある。とはいえ俺が知っている限りでは、それは今や祭りの一種みたいなもので、年に一回『花嫁』役の綺麗な子を花の神輿に乗せて近所を練り歩くくらいのそれこそ地方のミニ祭事レベルのものだが。
そんなお遊びの
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