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亡命編 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第五十五話 第七次イゼルローン要塞攻防戦(その5)
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ょう。あと七日でミューゼル中将が来ます。要塞の保持は可能です」
クラーゼンが全身を震わせている。キョトキョトと周囲に視線を向けていたが、誰も彼と視線を合わせようとしない。何度も唾を飲み込む音がした。
「シュターデン、我々はどうするのだ、降伏するのか」
「……残念ですが現時点では降伏は出来ません。今我々が降伏すれば駐留艦隊は反乱軍の大軍に追撃を受け甚大な被害をこうむるでしょう。イゼルローン要塞の保持もおぼつかなくなります。我々は此処で反乱軍を引き付けなければならないのです」
「……」
全滅するまで戦う、一分一秒でも長く戦う、それだけが要塞を救うだろう。
「或いは駐留艦隊の撤退も不可能かもしれません。その場合は我々同様、此処で反乱軍を引き付ける役を担って貰いましょう」
クラーゼンは蒼白になって震えている。嫌悪よりも哀れさが込み上げてきた。何故この男を担ごうとしたのか……。オーディンで飾り物として儀式にだけ参加させておけば良かったのだ。私がこの男を地獄に突き落とした……。
「シュターデン閣下、残念ですが駐留艦隊には連絡が」
「つかんか」
「はい……」
オペレータが項垂れた。八方ふさがりだ、気落ちしているのだろう。だが、私にはそんな事は許されん。何としても要塞を守る、あれが有れば帝国は守勢をとりつつ戦力の回復を図る事は難しくは無いのだ。
「ワルキューレを全機出せ、連絡艇として使うのだ。一人でも突破し駐留艦隊に辿り着けばよい」
「はっ」
「それから、駐留艦隊に辿り着いたら、戻る事は不要と伝えよ」
「……了解しました」
難しいかもしれない。反乱軍の大軍をすり抜け駐留艦隊に辿り着く……、溜息が出そうになった。
「元帥閣下、小官が反乱軍の作戦目的を読み違えた事については幾重にもお詫びいたします。ですがこの上は帝国元帥、宇宙艦隊司令長官としての職務と責任を全うして頂きたいと思います」
私の言葉にクラーゼンが指揮官席で震えている。近づいて小声で囁いた。
「指揮は小官が執ります。元帥閣下におかれましては暫くの間、御辛抱下さい」
「シュターデン……、私は何をすれば良い」
恨み事を言われるかと思ったがそうではなかった。無能かもしれないが、軍人では有ったのか……。どうやら私は最後まで人を見る目が無いらしい。
「難しい事ではありません。将兵達の戦いを、その死に様を見届けてください。それが指揮官の務めです。そしてヴァルハラで良く戦ったと誉めてやってください……」
「分かった、それなら私でも出来そうだ」
蒼白になりながら引き攣った笑みをクラーゼンが浮かべた。
耐えきれずに頭を下げた。指揮を執らなければならない、何時までも頭を下げてはいられない。だが込み上げてくるものが有った。
「シュターデン、指揮を頼む」
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