第一章
XXI
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ある。王との謁見は一人だけで、他は何があろうとも謁見の間には入れない。いかな王とて、それが女公爵ともなれば「時間だから帰れ」…とは容易く言えまい。
だがその時、王に一通の書簡が届けられて事態が一変したのであった。
その書簡の差出人は…あのファルの街長からである。急を要する旨を示す印が捺されていたため、それは謁見の最中であるにも関わらず、直ぐさま王へと届けられた。
不機嫌な王はその書簡を読むなり、直ぐに女公爵との謁見を打ち切って執務室へ戻ってしまったのである。
その様なことなど露知らず、コアイギスとルーファスらは先の話を繰り返していたが、そこへ扉を叩く音がしたため話を中断してコアイギスが言った。
「開いておる。」
そう言うや扉が開かれ、そこから当の女公爵が顔を見せた。
「ルーファスが来てると聞いてな。ベルーナ、邪魔をするぞ。」
「クリスティーナ、お主がここへ来るのは久しいな。」
コアイギスは苦笑しつつ女公爵へと席を開けた。名前で呼び合っているため、ルーファスらは些か面食らっているようであるが。
「全く…王にも困ったものだ。国法を曲げろとは言うておらんと言うに。」
女公爵は腰を下ろすや、苦虫を噛み潰した様な顔をして言った。そしてそのまま視線をルーファスへと向けたため、ルーファスは眉をピクッと動かした。
「ルーファス、随分と遅かったではないか。一体何を悠長にしておったのだ?」
「いや、これでも飛ばして来たんだぞ?魔術を行使出来りゃもっと早く着けたけどよ、王都周辺じゃ師匠すら行使出来ねぇじゃんか…。」
「分かっておる。八つ当たりだ。」
「叔母上…。」
このやり取りに、コアイギスは笑いを堪えている風で、口元が微妙に歪んでいた。しかし、ここで何か言えば薮蛇と、ルーファスは話題を切り替えた。
「っと忘れるとこだった。叔母上、これ。」
ルーファスはそう言って女公爵へ渡したのは、借りていた聖ニコラスのサファイアとラファエルの涙であった。
「そうであったな。ラファエルの涙は私が返却しておこう。」
女公爵はそう言ってそれらを受け取るや、コアイギスがルーファスへと言った。
「アダルベルト…お前、未だ家に帰っておらんのか?」
その問いに、ルーファスの表情に陰が差した。そのため、ヴィルベルトとウイツが話に割って入った。
「師匠は僕の鍛練のために旅を続けてくれているんですよ!」
「そ、そうですよ。ルーは何もわざと帰らない訳ではないのです。飽くまで修行のためであって…」
「まぁ良い。そんなことだろうとは思っておったからな。」
二人の言い訳を一刀両断したコアイギスは、何とも寂しげな表情をしたのであった。
コアイギスは最初から分かって言ったのである。それを見て、女公爵も寂しげな笑みを浮かべた。
「さて、行ってみる
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