第一章
XIX
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セシルはグスターフから離れて三人の造った器へと入ったのであった。
暫く待っているとその器が動き出し、グスターフのみならず、造った本人達さえも驚きの余りたじろいだ。
「し…師匠…!」
「本当に動いちまった…。」
「ルー、お前どれだけ無責任な奴だよ…。」
ウイツが溜め息混じりにそう言った時、不意にセシルの口が開いた。
「充分な器ね…。もっと早くこれがあったら私は…他人を怨むこともなかったかも知れないわ…。」
その声は美しく、とても人形が喋っているとは思えなかった。これが本当の声だと思うと、今まではその怨みから全く変わっていたことが窺えた。
「セシル…。」
グスターフは思わず彼女を抱いた。今までは叶う筈のない願いだったのだ。それはまたセシルも同様であり、彼女も彼を抱き返していた。
「貴方に…ずっと逢いたかったの…。こうして…抱きしめられたかったのよ…。」
セシルの言葉…それは偽りのない率直な言葉だった。実体の無い彼女にとって、温もりを感じる術がなかったのだ。愛しい者の温もりを感じる幸福を、彼女は切に求めていたのであった。
抱きしめ合う二人に、ルーファスらは胸に込み上げるものを感じた。それと同時に、もうこの様な過ちを繰り返すことがないようにせねばならぬと心に誓ったのであった。
「これで充分だ。さぁ、解呪の詠唱を。」
暫くして、グスターフはルーファスに言った。その言葉に、セシルも三人を見て頷いて言った。
「私も、もう充分です。これから先、この世ならざる世界でこの人と共にあり続けたいと思います。」
それはこの世で果たせなかった願い…いや、打ち砕かれた願いだった。
確かに、この二人に殺された者は数知れず、この二人を自らの手で消し去りたいと願う一族も多かろう。それを考えると、ルーファスらは深い哀しみを覚えた。
人を媒体とした魔術実験は戦が終わった後に糾弾され、率先して行っていた者らは皆、死罪を免れることはなかった。それは貴族でも同じであった。
しかし、未だこうして深い傷痕を残したままである。それは今もって戦が終わっていないことを示唆していた。
そんな思いを胸に、ルーファスはヴィルベルトとウイツを見ると、二人とも同じ思いだと言う風に頷いた。それは合図ともなり、ルーファスは意を決して口を開いた。
「黒き雲、その想いの鎖を断ちて、全て在るが儘に成すべし!」
ルーファスがそう唱えると、聖ニコラスのサファイアとラファエルの涙から光が溢れ、大地へと再び光が降り注いだ。その光は抱き合うグスターフとセシルを包み込むや、二人の姿は砂が零れ落ちる如く、時の波間へと静かに消えて逝った。
その姿が完全に消え去る刹那、グスターフとセシルは満面の笑みを溢して三人の魔術師を見た。
二人の笑みは至福に満ち、その姿はルーファスらの
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