第一章
X[
[6/7]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
ヴィルベルトの一言に、ルーファスとウイツは顔を見せた。
すっかりと忘れていたが、ルーファスの手首には聖ニコライのサファイアがある。女公爵から借り受け、いざと言うときに使用するためである。
「そうか…ま、こんなとこで使うとは思わんかったけどな…。」
そう言うや、ルーファスは墓地から荒れ野へと出て、そこで静かに呪文を詠唱した。それはどこかで聞いたことのあるもので、ヴィルベルトはそれであることを思い出した。
「これって…死者の行進の…。」
その歌うような詠唱は、死者の行進で聞いたものとよく似ていた。だが、それもその筈で、この呪文も新しいものなのである。
この呪文の創作者は死者の行進のそれと同じと言われ、このタイプの魔術は"旋律魔術"と呼ばれていた。そのどれもが美しく、全て音楽と言っても差し支えないものであった。
ルーファスが詠唱を始めて暫くすると、聖ニコラスのサファイアが輝き出した。すると、空から淡雪の様な光が降り注ぎ、穢れた土地を浄化し始めたのであった。
その光景を前に、ヴィルベルトはルーファスを福音史家であるのではないかと思った。無論、そのようなことはないのだが、それはそう思わせるほど厳かな光景だったのである。
地に落ちた光は邪気を吸い、それを中和させながら消えて逝く。それがどれ程続いたであろうか、ルーファスが詠唱を終えたと同時に全て消え去り、ヴィルベルトにさえ感じるように大地が蘇っていたのであった。
「ルー。私が埋葬する穴を作っておくから、お前はヴィルベルト君とグスターフを出迎えてくれ。そろそろ到着する筈だから。」
「分かった。ヴィー、行くぞ。」
「はい、師匠。」
そうしてルーファスとヴィルベルトは教会へと戻り、そこにあった蝋燭全てに火を灯してから、死者が墓地へと赴ける様にと道を整えた。そうして後、二人は正面の大きな扉を開いたのであった。
扉を開くと、そこには既にグスターフの姿があり、扉が開かれたと同時に死者が入り始めた。しかし、そう歩まぬうちにその歩みが弱まったため、ルーファスは即座に魔術を行使した。それは死者の行進である。
ルーファスが詠唱を始めると、死者の弱まった歩みは戻り、整えた道を真っ直ぐに裏の墓地へと向かって行ったのであった。そしてウイツが用意した墓穴へと入って行き、それを確認してウイツは魔術で土を盛って行ったのである。
どれ程の時を経たであろう。とうとう最後の一人が教会へ入ろうとしていた。それはあの…グスターフに体を貸した少年であった。だが、その少年の屍はグスターフの近くより動こうとはしなかった。
「グスターフ…そいつは…。」
「私を父と勘違いしているのだろう。私が中に長居してしまったせいだ。」
グスターフはそう言うや、その少年の屍に向かって静かに言った。
「早く行きなさい。私も直
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ