第一章
XV
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「黙りおれ!」
妖魔は叫んだ。
大神官の語ったことは、この妖魔にとって他人に知られたくない秘密であり、自らの心の奥底に眠らせた真実なのであった。
ミストデモンと呼ばれる妖魔は、元は一人の美しい女性であった。
その昔、今は廃棄されたその街の一帯をテーネセルシェと言う伯爵が治めていた。この伯爵には娘が一人おり、その名をセシルといった。
ある時、セシルは公爵家へと嫁いだが、二年程で実家である伯爵家へと戻された。その理由は、セシルが子を成せぬ体だと知ったからであった。
実家に帰ったセシルは父である伯爵に大いに責め立てられた。それこそ嘆くことさえ許されぬ程に…。
それと同じ頃、その街では禁忌の実験が行われようとしていた。
それまでの実験では動物などを使っていたが、造り出された端から処分されていた。意志疎通が出来ない上に体は非常に脆く、兵器としては使えなかったのである。
そこで、人間を使うことで命令を実行させられるのではと考えたのである。戦の狂気と言えよう。
この街では最初の実験として孤児を使う予定であったが、そこにセシルが代わりに使われることになった。セシルの父が権力を使って捩じ込んだのである。使えぬ娘…故に、代わりに兵器となって尽くせと言うわけである。それが巧くいけば、危うくなった公爵家との仲も修復出来ると考えてもいたのであった。
だが、実験は失敗に終わった。実験の途中で大爆発が起こり、セシルの遺体さえ回収出来ぬほどに全てが灰となったのである。
魔術師達は未然に防御結界を張って身を守ったが、それでも多くの死傷者を出す惨事となってしまったのてあった。
だが、その中にあって掠り傷一つ負わずに済んだ男がいた。その男は仲間の手当てに奔走し、仲間には強運なる魔術師と言われた。
その男は数日は何もなく日々を過ごしていたが、その後に少しずつではあるが変化が訪れた。言動がおかしくなって行き、次第に凶暴化していったのである。そして遂に…仲間へと牙を向けるに至り、周囲にいた十人の魔術師がその魔術師を結界で捕縛したのであった。
捕縛された魔術師は暫く暴れていたが、ふと体から霧のようなものが出ていったのである。それ故に、それを“ミストデモン"と呼ぶようになったのであった。
この妖魔であるが、決して女魔術師に憑くことはなかった。男の魔術師だけに憑き、男の魔術師だけを襲うことで有名な妖魔なのである。
「実験を止めようとセシルを庇ったのが、伯爵家に雇われていた女魔術師ただ一人だったんじゃ。他は皆口を鉗むか伯爵に合わせとったが、その中にあってさえ女魔術師は伯爵へと嘆願した。しかし、伯爵はその行為を自分への反逆とみなし、その女魔術師を投獄したんじゃよ。故に、ミストデモンと呼ばれるそやつは、決して女魔術師に憑くことも攻撃することもせ
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