第一章
XI
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はそう言って溜め息を吐いた。
「大神官殿。やはりこれは…。」
大神官にルーファスが問った。大神官には正体が分かっている様だったからである。
「そうじゃ。先の大戦の折りに造られた妖魔の一体じゃ。それも実体の無い奴でのぅ…封ずるには人体そのものを媒体にするしかない厄介な妖魔じゃ。」
「それは…。」
ルーファスは口ごもった。人体を媒体にするということは、即ち人一人犠牲にせねばならぬと言うこと。
「ファル、どうにかならんのか。」
そこにそう女公爵が言った。女公爵には珍しく、かなり苛立っている様子である。
「分かっておるわい。わしとて犠牲など出しとうないでな。しかし、この妖魔は人の邪念に取り入り、その者を精神から支配する。そうせねば力を行使出来んからのぅ。悪いが、アーネストはもう死んどると思ぅてくれ。わしでも精神を喰われた者を戻すことは出来ぬからの。このまま封ずる他はない。」
大神官と女公爵がそう話していると、アーネストの口を借りて妖魔が言った。
「何をごちゃごちゃと話している。この私を再び封ずるつもりか?無駄だ。エネスの杖はもう無いからな。」
妖魔はさも可笑しそうに笑いながら言った。
エネスの杖とは、神聖術者エネスが樫の古木より造り出したもので、多くの術が施された対妖魔専用の武器の一つである。
エネスはその杖で妖魔に支配された者を突き刺し、その上から石化の術を施したとされ、その時に杖も石となった筈であった。
「私は…私を創り出した人間共を呪う。故に、私は再び人の間で戦を起こさせる。」
揺れる焚き火の淡い明かりが、アーネストの姿をした妖魔を不気味に浮かび上がらせていたが、その顔には今までに無かった表情が見え隠れしていたことにルーファスは気付いた。
その表情とは…怒りである。いや、憤怒と言っても良いだろう。だが、その表情は一瞬で消え去り、再び下卑た笑みを浮かべて言った。
「それでは、お前達が止めてみるがいい。それも余興としては面白いからな。それでは暫し、お前達を生かしておくとしよう。エネスはもういない。私はどこまでも自由なのだ!」
妖魔はそう言った刹那、その姿を夜の闇へと消し去り、周囲を覆っていた邪気も共に霧散したのであった。
「ルー…これは大変な事態になったな…。」
ウイツがそうルーファスへと言うと、ルーファスは深い溜め息を吐いて返した。
「そうだな…。あの妖魔…国そのものを滅ぼそうとしてるみてぇだったかんな…。叔母上、あの妖魔について何か知ってますか?」
「いや、噂程度しか分からん。ファル、お前は良ぅ知っておるようだが?」
問われた女公爵は、その問いを腕輪の宝玉の中の大神官に向かって言った。すると、大神官は妖魔について語りだした。
その昔、国の覇権を賭けて大きな戦が起きた。初めは人間同士の戦い
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