第一章
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いた話によれば、甥のファルケルはかなり前に家を捨て、家族や親戚とも完全に縁を切ったそうである。と言うより寧ろ、親族から縁を切られたようであるが。
幼い頃に父を亡くし、かなり貧しい環境で育ったファルケルは、自分の力を過信し、本来してはならない行動をとったと言う。
その力…“神聖術"で金儲けをしていたのである。
神聖術者は、そう多くはない。魔術師同様、それは血統によって受け継がれるが、神聖術者は貴族ではない。術者がそうなることを拒んだためであり、基本は神に仕える形となっている。それ故か、神聖術者は少なく、得てして貧しい家系に生まれることが多い。
これまでファルケルの様に振る舞う例はなかったが、今回のこれは歴史に残るであろう事態だと言える。
「お前さん、あの子のとこへ行くんかい?」
「そうだ。何をやらかすか分かんねぇが、それが何であれ、止めねぇとなんねぇかんな。」
ルーファスがそう言ってヴィルベルトと立ち上がると、老婆はルーファスの手を掴んで言った。
「どうか、あの子を全うなもんにしてやっとくれ。兄が大層可愛がっとったんじゃから、根は優しい良ぇ子なはずじゃ。」
老婆は皺の刻まれた手に力を込めていた。
やはり身内である。縁を切ったとはいえ、心配で仕方無いのであろう。それを察し、ルーファスは老婆の手を握り返して答えた。
「分かったよ。」
そう返すや、ルーファスはヴィルベルトを連れてマルティナのいる厨房へ行き、街を出ることを告げて直ぐに外へと出た。
二人が馬車へと行くと、そこには既に先客がいたのであった。月明かりの中、馭者台にはウイツが笑いながら座っていたのである。
「ウイツ…お前、さっきの話聞いてただろ?」
「ご名答。二人だけ行かせる訳にもいかないしね。どうせ聞かなくても出るつもりだったんだろ?」
「…お見通しってか?」
「ま、長い付き合いだからな。街長には言ってある。食糧も金も積んであるから、何の心配もないぞ?」
ウイツがそう言うと、ルーファスもヴィルベルトも、今日何度目か分からない苦笑を洩らしたのであった。
そうしてルーファスは馭者台に、ヴィルベルトは馬車の中へと着くと、ウイツは静かに馬車を出したのだった。
マルティナの店からは賑やかな声が聞こえ、空には光輝く月と星々があった。
だが、三人の心は晴れない。この先に待つ何かが、三人の心を暗い曇で覆っていたからである。
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