責任とります
深夜2
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俺の抗議など素知らぬ顔で、川内は興味深そうにパソコンの画面を眺めていた。おんぶの時みたいに俺の背中に密着してるから、俺の背中全体に川内の体温が感じられるのが、非常によろしくない。
でも同時に、この時間に人と一緒にいるという実感があって、なんだかホッとする。何かと自分の世界にこもりがちなコーディングを、このアホに見守られているという、妙な嬉しさがある。
「ねーねー」
「んー?」
「この英語さ、フォントの色がすごくカラフルだけど、これはせんせーが書式設定してるの?」
「コードエディタって言ってな。キーワードやら命令やら意味のある単語やらを入力すると、目立つように自動で色分けされるんだよ」
「ふーん……」
カラフルって言っても、いうほど色分けされてるわけでもないけどな。ところどころ青色だったり緑だったりするだけで。でも川内にとっては新鮮だったようで、横顔とその眼差しが、いつも教室で授業中に見せている表情と重なった。
川内はパソコンに右手を伸ばし、人差し指で、一文字一文字、ゆっくりとキーを打っていった。何か思うところがあるのかと何も言わずその様子を見ていたが……
「ありゃ。文字の色が変わらない」
「改行してないからな。それに “yasen”はキーワードじゃないし……」
「そっかー……パソコンもかわいそうだね……夜戦の良さがわからないなんて……」
残念そうに、入力したyasenをバックスペースで消していく川内。意味不明な同情心をパソコンに対して抱いたようだが、その同情は、永遠に報われることはないと断言出来る。
「ここは? 文字赤くなってるけど」
「そこは『ここ間違ってますよー』て目印だな」
「ふーん……」
読み込んだcsvのレコード数を出力するMsgBox関数の、記述ミスが引っかかっているんだよ……vbaなんてまだ始めたばかりで、ちょくちょくこうやってミスするんだって……。
喜んでくれるか分からないが、ちょっとサービスしてやろう。俺はMsgBox関数の記述を『MsgBox "夜戦する?",4,"川内さんへの問いかけ"』へと変更した。
「お、夜戦だ」
「川内。ここの三角ボタン、クリックしてみ」
「んー? んー……」
再びパソコンに手を伸ばし、タッチパッドでマウスポインターを操作して、実行ポタンをクリックした川内。途端に表示される『夜戦する?』『はい』『いいえ』のウィンドウは、川内の目を輝かせるには、充分なインパクトを持っていたようだ。
「ぉお!! せんせ! なんか出てきた!! 『夜戦する?』て聞いてきてるよせんせー!!」
「『Hello World』って言ってさ。プログラマーなら誰もが最初に組むプログラムだ」
「へぇぇえええ!! はろーわーるど!!!」
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