第一章
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なくはねぇが、そんなことしても意味無ぇだろ?」
ルーファスは何度目かの溜め息と共にダヴィッドへと言った。だが、ダヴィッドは心底悔しそうに返した。
「しかし、毎年ああなんです。こっちは必死だってのに、あいつらは…。」
「そうは言うが、ここへグリューヴルムを見物しに来る奴らにだって、何かしらの悩みはあるだろうが。全く悩みの無ぇ人間なんて居ねぇよ。そうは考えなれんかったのか?」
「…はい…。」
ダヴィッドの囁くような答えに、ルーファスはやれやれと言った風に肩を落とした。すると、そこへマルティナがダヴィッドを擁護するように言った。
「私も悪いんだ。彼の好意は前々から気付いていながら、こうでもしなきゃ食べてけなかったし、今いる店の娘らだって私の境遇と似たり寄ったりで、とても見捨てられなかったから…。」
「似たり寄ったりって…それじゃ…。」
ヴィルベルトが表情を曇らせて言った。そんなヴィルベルトを見て、マルティナは寂しげな笑みを浮かべて答えた。
「そう…ここに集まっている娘らは、皆孤児だったの。幸い私にはこの家が残ってたから娼館なんて始められたけど、もし家が無かったら…その辺で野垂れ死にしてただろうね。そういう娘が少しでもいなくなるよう、私が声を掛けて回ったんだ。勿論、強制なんてしなかったさ。何しろ仕事が仕事だしね。出来ないと断った娘も、出来るだけ世話したけどさ。」
「世話した?」
今度はルーファスが訝しげに問った。マルティナはルーファスが訝しく思っているのが分かり、直ぐにその問いに答えた。
「変に勘ぐらないで下さいな。他の娘らは、ここより金は安いけど全うな仕事を世話してくれるとこに行かせたんですよ。」
そう返したマルティナに、ルーファスは何かを思い付いたように言った。
「そんじゃさ、ここもそうした店にすりゃ良いじゃん。世間には商業ギルドもあるが、この街にゃ無ぇかんなぁ。」
ルーファスのこの言葉に、マルティナとダヴィッドだけでなく、ヴィルベルトさえも目を丸くしたのであった。
商業ギルド…それは幅広く人と職を集め、適材適所へと人を派遣する組織のことである。良い人材を派遣出来れば高い報酬が得られ、その報酬で次の人に身支度をさせて派遣する。これを幅広く繰り返すため、立ち上げにはかなりの資金が必要なのである。
元来、ギルドは貴族か資産家の連名によって作られる。魔術師ギルドも同様で、金が無くば人も職も集められないのが実状。無論、マルティナとダヴィッドにそんな資金を調達出来ようはずはない。少なく見積もっても、軽く三百ゴルテは必要なのだから。
「何言ってんだい!そんな金、ここにあると思うかい?まぁ、それは夢だね。私だって、こんな商売いつまでもって思っちゃいないが、今は日々の暮らしで手一杯さ。」
マルティナはそう言って苦笑いした。
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