第一章
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いが、神聖術師が宗教を起こそうなどとは考えなかった。神聖術そのものが、もはや宗教的な意味合いを持っていたからである。
ルーファスが気にしたのは、先ずは未だ残る貧富の差だったが、それすら後数年もすればかなり改善される筈であった。この国…いや、この大陸の王や貴族は、決して民を見棄てることはしない。民がいなければ国そのものが成り立たないからであり、民がいてこその王や貴族なのである。民は宝と明言する王や貴族も少なくない。
だが、そこへ返ってきたダヴィッドの答えは、ルーファスに頭を抱えさせることとなった。
「愛です。ファルケル様は、我ら庶民を愛して下さり、そして新しい未来を創造する力を見せて下さったのです。」
「は?愛に…創造?」
これにはヴィルベルトもマルティナも首を傾げるしかなかった。
その微妙な雰囲気の中、一人火の点いたダヴィッドが続けて言った。
「そうです!ファルケル様は、我らの前で病に苦しむ者を癒し、傷を負いし者を治して下さいました!それはまさに奇跡です!」
「えっと…それって…。」
ルーファスは徐に短剣を抜き、それをファルケルに酔いしれているダヴィッドの手の甲に突き立てた。
「痛っ!!何を!」
ダヴィッドの文句を聞くより早く、ルーファスは短剣を引き抜いて言った。
「我が祈りし声に全て和らぎ。」
すると、傷は見る間に閉じて行き、その痕さえ残すことはなかった。
それを見たダヴィッドは直ぐ様ルーファスへと平伏し、マルティナも一歩下がって同様に平伏してしまった。が、ヴィルベルトだけは驚いて声を上げた。
「師匠!魔術では人体を癒すことを禁止しているじゃないですか!」
「うっせぇなぁ、ヴィー。そんなこたぁ分かってるって。でもよ、こうでもしねぇと証明出来ねぇだろ?」
「それは…そうですけど…。」
師からそう言われたものの、ヴィルベルトは未だ不服そうであった。しかし、マルティナとダヴィッドの態度を見れば、これも仕方無しと思うことにしたのであった。
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