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亡命編 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第五十四話 第七次イゼルローン要塞攻防戦(その4)
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文句は言わないはずです」
クールな声でした。まるで経営コンサルタントみたいな言い方です。ヴァレンシュタイン准将の言葉にシトレ元帥が憮然としました。
「君が羨ましいよ、どうしたらそう平然としていられるのか……、帝国軍はこちらの狙いに気付いたかな、ヴァレンシュタイン准将」
「気付いても問題ありません。彼らにはこちらの想定通りに動くしか手が無いんです」
ヴァレンシュタイン准将が冷徹と言って良い口調で元帥に答えました。元帥がまた溜息を吐いています。そしてヤン准将が苦笑を浮かべて言葉を続けました。
「故に我戦わんと欲すれば、我と戦わざるを得ざるは、その必ず救う所を攻むればなり、か……」
古代の兵法書、孫子の一節です。こちらが戦いを望んだ時、こちらと戦わなければならないのは、そこを攻めれば相手が必ず救出に向かう所を攻めるからだと言っています。この作戦の説明を受けた時、ヴァレンシュタイン准将が教えてくれました。
「最初にイゼルローン要塞、次に遠征軍、帝国軍はそのどちらも見殺しには出来ない……。見事だよ、ヴァレンシュタイン准将」
ヤン准将の感嘆にヴァレンシュタイン准将は無言でした。褒められたんですから少しは喜んでも良いと思うのですけど、この二人の関係はどうも微妙です。
グリーンヒル中尉もそれについては酷く心配しています。いつかヤン准将がヴァレンシュタイン准将に排斥されるのではないかと思っているようです。私はヴァレンシュタイン准将がヤン准将を高く評価しているのを知っていますからそれは無いと思っています。
ただ、もう少しヤン准将がヴァレンシュタイン准将に協力してくれればとは思います。今回の作戦案もその殆どをヴァレンシュタイン准将が考えました。私とグリーンヒル中尉が手伝ったのですが、作戦案の他にヴァンフリート4=2の基地の撤退、艦隊の動員計画、補給計画と大変でした。
ワイドボーン准将が作戦案を計画書にまとめ、それを最後にヤン准将が確認しました。ヤン准将が事務処理が出来ないのは分かっていますが、それでももう少し、と思ってしまいます。ヴァレンシュタイン准将にもそういう気持ちが有るのかもしれません。
お茶の時間はそれから三十分程で終了しました。ヤン准将は仮眠をとるために自室へ、私とヴァレンシュタイン准将は昼食を摂るために食堂に行きました。昼食にあまり時間はかけられません。私達の後に交代でワイドボーン准将とグリーンヒル中尉が昼食を摂るのです。
このまま戦闘が推移するなら多分もう一度食事を摂り、仮眠もとれるでしょう。その後はタンクベッド睡眠だけが休息をとる手段となるはずです。別働隊が来るまで残り七時間を切りました……。
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