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亡命編 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第五十四話 第七次イゼルローン要塞攻防戦(その4)
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か?』
縋る様な口調でシュタインホフ元帥が問いかけてきた。気持は分かる、シュタインホフもどうにもならないと分かっていて、それでも訊いているのだろう。

だが本当にどうにもならない。俺の力でどうにかなるのだったら相談などしていない。用兵の問題ではないのだ、単純な時間の問題なのだ。シュターデンがあと一週間遅く軍を動かしていれば……。溜息が出た。

「残念ですが間に合いません。小官がイゼルローン要塞に着くのは十四日になります。あと一週間は有るのです。我々が要塞に着くまでに戦闘は終了しているでしょう」

『……どうにもならんか』
「イゼルローン要塞すら落ちている可能性が有ります。……或いは多少は残っている艦艇が有るかも知れませんが、その場合はこちらをおびき寄せる罠の可能性が高いでしょう」
呻き声が聞こえた。エーレンベルクかシュタインホフか、或いは二人一緒かもしれない。

『有り得ない話ではないでしょう。地上戦では時折起きるのです。負傷した敵を殺さずに放置し救出しようとする敵をおびき寄せる……。厭らしい手ではありますが効果的ではある。見殺しにすれば士気が落ち、助けようとすれば損害が増える……、地獄です』

また呻き声が聞こえた。
『呪われろ、ヴァレンシュタイン! 忌まわしいガルムめ、いったいどれだけの帝国軍将兵の血を飲み干せば気が済むのだ!』

エーレンベルクが顔を震わせてヴァレンシュタインを罵った。彼は多分カストロプの一件を知らない。知っている俺にはヴァレンシュタインを罵る事が出来ない。エーレンベルクが羨ましかった。今更ながら知れば後悔すると言われた事を思い出した。

「我々の任務を、……確認したいと思います。我々が最優先で守るべきものはイゼルローン要塞、そういうことで宜しいでしょうか?」
途切れがちに出した俺の言葉にスクリーンの三人が顔を見合わせた。酷い話だ、俺は味方を見殺しにする許可を得ようとしている。

『……良いだろう、最優先はイゼルローン要塞の保持とする』
絞り出すようなエーレンベルクの答えだった。断腸の思いだろう、この瞬間帝国軍将兵七百万人が切り捨てられた。だが俺はもう一つ酷い事を訊かねばならない。

「万一、要塞が反乱軍の攻撃により陥落していた場合は?」
俺の言葉にエーレンベルクが目を瞑った。疲れ切った表情をしている。何とも言えない罪悪感が胸に満ちた。

『……無理をせず撤退せよ』
「はっ、了解しました」
これで味方を見殺しにするのは二度目だ。最初は見殺しにしたとは思わなかった。今回は見殺しにする事を自分から要請した。段々酷くなる。次は自らの決断で味方を見殺しにするかもしれない。

以前は戦う事に昂揚する自分がいたが最近ではそれも無くなった。多分もう二度とそんな事は無いのだろう。あれは暑く眩
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