第7章 聖戦
第170話 シュラスブルグ城潜入
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世界の裏側に存在していると言われている闇。その闇の一部が溶け出し、今この瞬間、世界と混じり合ったかのような気さえして来る深き夜。
しかし――
しかし、その中に漂う強い違和感。本来、夜と言う時間帯は人々に安らぎをもたらせる時間帯のはず。
だがしかし、今、俺が感じて居るのはとても冷たく、そして昏い。これは非常に不吉な感覚。
完全な闇の中、まるで光の尾を引くかのようにゆっくりと振り抜かれる彼女の右腕。巫女装束のそこかしこに装備された退魔の鈴が夜に相応しい、しかし、ここが中世ヨーロッパの城である事を考えるとあまり相応しくない微かな音色を奏でた。
指先に挟まれているのは今、正に起動しようとする二枚の呪符。見鬼の俺の瞳には、爆発寸前までに高められた霊気がその呪符に籠められて居る事が分かる。
放たれた瞬間、呪符は僅かに彼女の帯びた霊気に相応しい黒曜石の輝きを放ちながら前方へと進み――
同時に、彼女の霊気の高まりに反応して涼やかな音色を響かせる退魔の鈴。
しかし、その刹那!
ある一定以上の見鬼の才に恵まれた者にしか感じ取る事の出来ない爆発が発生! 所謂、巨大な霊気の爆発と言うヤツ。
そして――
そして次の瞬間には、確かに呪符の存在していたはずの空間に顕われる巨大な狼。
そう、それは正に巨大な狼としか表現出来ない存在であった。闇に光る金色の瞳に漆黒と表現すべき見事な毛並み。式神符として考えるのなら然して珍しくもない魔狼系の式神なのだが、何故か彼女が操ると其処に僅かな西洋風の香りが漂う。
彼女が蒼穹を飛ぶ式神符を打つと、もしかするとカラスなどではなく、蝙蝠が放たれる可能性が高いのかも知れない。
真なる闇。敵地であるこの場所には一切の光源となるべき物は存在する事もなく、当然のように高価なガラスを使用した明かり取り用の窓もない、ここアルザスの州都。シュラスブルグ城の内部は今、夜の闇と静寂に包まれている。
何故、今ここに俺、タバサ、それに湖の乙女の三人……と言うか、三柱がいるのかと言うと……。
☆★☆★☆
今にも冷たい氷空からの使者が舞い降りて来そうなここアルザス侯爵討伐の為の陣の築かれた小高い丘。曇天から降り注ぐ陽光自体が元々少ない上に、周囲に存在する背の高い木々の枝に遮られ、現在が昼日中とは思えないほど暗い。
正直に言うと、こんな日はコタツに入っておでんを食べるのが相応しい。そう言うものぐさ者の考えが風に吹かれる度に頭へと浮かぶのですが……。
いや、よりリッチにアイスクリームと言うのも乙な物かも知れないな。
「一応、策は三つ考えてあります」
脳裏に浮かんだおでんの具材と、そしてアイスクリームの幻影が集まって輪舞を始める様を無
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