巻ノ九十二 時を待つ男その十四
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「兵法書を読もう」
「そうされますか」
「では書もです」
「用意させて頂きます」
「その様にします」
「頼む、拙者も負けられぬ」
幸村、彼にというのだ。
「そう思った、そしてじゃ」
「思われたからにはですな」
「すぐに動かれる」
「それが殿ですな」
「動かねば何もならん」
立花の声にはこれ以上はないまでに強いものがあった。
「だからな、そうしようぞ」
「わかりました、ではです」
「書も出します」
「その書を常に読まれて下さい」
「是非共」
「これからはな」
立花は実際にこう言い修行の合間にも書を読む様になった、望月とのそれの間にもだ。それは幸村を見てのことだった。
そして幸村もその立花を見てだ、彼に問うた。
「書を読まれるのは」
「うむ、貴殿を見てな」
立花は微笑んでその幸村に答えた、修行の休憩の時に書を読みつつだ。読んでいるのは平家物語だった。
「拙者も負けていられぬと思ってな」
「だからですか」
「書を読む様にした」
休憩の時にというのだ。
「この様にな」
「そうなのですか」
「負けられぬ」
立花は笑って幸村に話した。
「その励みを見ればじゃ」
「それがしの」
「修行の間も学問に励みさらに上を目指すな」
「それをですか」
「見て感じた、だからじゃ」
それ故にというのだ。
「拙者もこうして書を読んでいく」
「左様ですか」
「そして貴殿と戦の場で会うことになれば」
「その時はですか」
「貴殿に負けぬ戦ぶりを見せる」
幸村に対してもというのだ。
「武士として恥じぬ戦ぶりを見せたくなった」
「それがしの様な者に対して」
「何を言う、貴殿程の者は二人とおらぬ」
幸村自身に言うのだった。
「だからな」
「それで、ですか」
「拙者も御主の様に励むことにした」
「そして戦になれば」
「御主と会っても引けを取らぬ戦をしようぞ」
「わかりました、ではその時はそれがしもです」
幸村は立花、自身にその心を見せた彼に畏まりそのうえで正対して応えた。今二人は心でも向かい合っていた。
「その全てで以て」
「戦ってくれるか」
「恥のない様にします」
「うむ、ではな」
「戦になれば」
「共に引けを取らぬ戦をしようぞ」
「そうしましょうぞ」
二人で誓い合うのだった、互いに次に戦があれば敵味方に別れることがわかっていてもだ。彼等は漢として誓い合った。
巻ノ九十二 完
2017・1・25
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