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なく。


「カスがバカな事をしてたから懲らしめただけだ。お前を救うのはもののついでってだけだ」

「それでも……クルスはあたしを助けてくれた。あたしはそれが嬉しいんだ……」


 にこっと笑顔を見せたアリスに、小さく舌打ちするクルス――視線を逸らし、頭を掻いていると。


「……兄さん」

「な、なんだよ由加」


 そんな二人のやり取りを見たアリスは――。


「あ、あれ?クルスって妹居た?」

「あ? ……ああそうか、ちょうどお前と入れ違いだったな。お前が転校した後の四年になった時だな。俺のクソ親父と由加の母親が再婚してな」

「そ、そうだったんだ」


 全然知らなかったと小さく呟くアリス、無理もない……転校してから完全に疎遠になっていたのだから。

 改めてアリスは隣の由加を見ると。


「初めまして。兄さんの義妹、有川由加って言います」


 折り目正しく頭を下げる由加に、アリスは。


「は、初めまして。加川有栖です。よろしくね?」

「はい。ですが……兄は渡しませんので」

「え……?」


 互いに握手を交わし、何やら小さな声で喋る由加。

 クルスは呑気に欠伸をしていたが――。


「な、何でクルスを渡さないって――」

「言葉通りの意味です。兄に近付く悪い虫は、私が排除しますので」

「わ、悪い虫って――」

「ええ。兄には私がついていますので悪い虫は必要ないのです」


 そんなやり取りの中、アリスは直感した。

 この子はクルスとあたしの間に立ち塞がる障害だと――。


「では兄さん。そろそろ行きましょう、彼方でクラス表が貼られてる筈ですから」

「だな。アリス、もう泣くんじゃねぇぞ」


 するりと自然にクルスの腕を取る由加、クルスは歩きにくくて仕方なかったのだが――。


「あ、あたしも行くっ! てか良いでしょクルス?」

「……好きにしな」

「へへっ、じゃああたしも!」


 そう言って空いたクルスの腕を取ったアリス。

 二人に挟まれたクルスは――。


「離せ。歩きにくい」

「良いじゃん。久しぶりに会った幼なじみと一緒に歩けるんだよ?」

「兄さん。可愛い義妹がこうして歩くなんて事は貴重ですよ?」


 二人はそう言うが、本当に鬱陶しいと感じているクルスは傷付けないように振り払う。


「けっ、さっさと行くぞ。あんなんじゃ歩きにくいしな」


 ずかずかと先に歩くクルス、二人は置いていかれないように後を追った。
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