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逆さの砂時計
Side Story
少女怪盗と仮面の神父 45
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んな想いには何の意味も無い。でも……それでも)
 「……手を、取っても……良い?」
 正面の闇へ向かって、両腕を恐る恐る伸ばしてみた。
 指先に触れるものは無い。二人の声は答えてくれない。実際には居ないのだから、それが当然。この声は幻聴、或いは耳奥に刻まれていた記憶でしかない。答えてくれる訳がないのだ。そんな事は判ってる。
 判っていた、のに。
 (……莫迦みたいだ、私)
 空を切った期待感と身勝手な失意で、顔がくしゃりと歪む。自分の果てしない情けなさに溜め息を溢しかけて……
 「っ!?」
 飲み込んだ。

 「「ミートリッテ」」

 色と形を持った十本の指が正面の宙に現れ、熱を伴って、ミートリッテの両頬にそっと触れる。
 丸みを帯びた柔らかな左手と、節榑立った大きな右手が、成熟前の輪郭を優しくなぞった。

 「私達の、可愛い娘」

 「ずっと、愛しているよ」

 「「これからはどうか、笑顔で……」」

 ……こんな言葉は、知らない。こんな事は言われなかった。
 この温もりも台詞も、赦されたい願望が作り出した浅ましい幻? 醜い欲求の塊?
 でも……

 「「幸せに」」

 ありえない光景に驚き立ち尽くすミートリッテの一歩手前で、手首から腕が。腕から肩が。霧が晴れるように少しずつ、確かな形を取り戻していく。
 真っ白な世界に、まだ元気だった頃の男女が姿を現していく。
 そうして最後の最後に見えた、晴れた日の澄み渡る空と同じ青色の双眸と、深い森に差す影みたいな紺色の双眸は。二人の顔は。
 「…………そっ……か……。そう、だったね……。あの時、二人は……」
 まるで、何もかも……苦痛も哀しみも遣る瀬無さも全てを赦し、受け入れているのだと言いたげに。
 そんな風に、大らかで穏やかで静かで優しい微笑みを、湛えていた。

 笑って、くれて、いた。

 「……っ大好きだよ! 自分を護りたくて、逃げてばっかりで、面と向かっては言えなかったけど! ずっとずっとずっとずっと! 二人共、大好きだった!! 今も、大好きだよ! 私を産んで、育ててくれて、たくさんたくさん、愛してくれて……! ありがとう……っ!」
 過去の残像と目の前の幻影が重なった瞬間、衝動に駆り立てられるがまま両親の首に腕を回し、形振り構わずしがみ付く。
 ほんの少し屈んで背中を包んでくれた二人は、決して本物の両親ではないけれど。亡くなっている相手に気持ちを叫んだって、今更どうにもならない事に変わりはないけれど。
 当時は自分の弱さや汚さをまざまざと見せつけられた気がして受け止め切れなかった真実を、しっかり思い出させてくれたから。
 (今だけは。今この瞬間だけは、素直に感謝します。お父さん、お母さん。それに……)
 こんな形で両親の気
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