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逆さの砂時計
Side Story
少女怪盗と仮面の神父 45
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リなお茶会とか始めるんだ。先を急ぐ通行人にとっては、邪魔くさいことこの上ない。

 そんなことになったら、普通は苦情の大嵐が発生するところだけど……
 なんだかんだで事情を知った全員に赦されちゃうんだろうな。
 外面だけは善良美人だから。
 外面だけは。

(くっそおお……慇懃無礼な天然腹黒神父めぇぇ……! これからの人生、死ぬまで髪がぴょい跳ねしてまとまらない呪いに悩まされ続けてしまえ! サラサラな長髪を実際にぴょい跳ねさせる方法なんか知らないけど!)

 なんとかしてアーレストを貶められないかと、閉じた目蓋の裏に非常識な振る舞いや短所らしき点を挙げ連ねてみるが。
 どれ一つとして欠点とは認められそうもない。
 むしろ、公の場でうっかり指摘しようものなら、自分のほうが奇異の目で見られそうだ。

 おもむろに覚醒していく思考の中、不毛だと解っていても無意味な呪詞(じゅし)を並べ立てるしかできない自分に対する口惜しさと、美形に対しては限りなく優柔不断な世界そのものへの苛立ちが頂点を極めた頃。

「…………。……………………て、あ……と……」

 唐突に、声が聞こえた。

(? 誰?)

 耳元の髪がこすれる音にさえ掻き消されてしまいそうな、小さな声。
 どこか懐かしく感じる女性の声に首を傾げると

「……めんな……」

 今度は、女性の声よりも少しだけ鮮明に、男性の声が聞こえた。
 悲しくも愛しく、優しくも切ない、もう二度と聞こえない筈の声が。

(…………っ??)

 落雷にも似た衝撃を受けて開いた視界には、言葉通り、何も無かった。

 光も影も、人工物も自然物も無く。
 胸元辺りに持ち上げた自分の両手さえも、まったく見えない。
 遠くも近くも(さえぎ)っている、濃厚で際限がない、真っ白な闇。
 焦燥にも似た自らの忙しい鼓動だけが、自分にミートリッテという存在を認識させている。そんな空間。

 だから、解った。
 瞬時に理解できてしまった。

(……夢)

 ここは夢の中。
 ミートリッテの体は、未だに目覚めてはいないのだと。

(それで真っ先に聞こえたのが二人の声って。我ながら子供染みてるなぁ)

「ミートリッテ……」

 大好き、ありがとう、ごめん。
 三つの言葉を遺して消滅した、肉親達の声。
 死別してから七年以上が経った今でも、夢に見ているだけだと分かってもなお、心臓を強く握られているような錯覚に襲われて、すごく痛い。
 痛くて苦しくて、涙が溢れそうになる。
 最後の言葉なんか聞きたくなくて、耳を塞いでしまいそうになる。

(……ああ、でも……)

 今なら。せめて、夢の中でなら。
 あの時できなかったことができるかも知れない。
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