ムカつくけど、安心する
夜〜明け方
[1/8]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
トントンというリズミカルな包丁の音が聞こえてきた。
「……ん」
普段はこの部屋にまったく鳴らないはずの音だ。うっすらと瞼が開く。台所の方が明るい。川内がいつの間にか帰ってきたらしい。川内の後ろ姿が見えた。いっちょ前に赤いバンダナを頭に巻いて黄色いエプロンつけて……鼻歌交じりに何かを作っているようだ。
「う……」
「♪〜♪〜……」
コトコトという、鍋を火にかけている音も聞こえた。ダシのいい香りが台所から漂っているのを感じる。今までこの部屋では、漂ったことのないタイプの香りだ。
包丁の音もコトコトという音も、今の俺の耳にはけっこう大きい音に聞こえた。にもかかわらず、そのどれもが、聞いていて、とても心地いい音だった。そして。
「♪〜♪〜……」
あのアホのものとは思えない、とても静かで、でも楽しい、心地いい鼻歌も。
「……」
心地いい音と、新鮮な香りに包まれて、俺の身体は、瞼を再び閉じていった。
………………
…………
……
「♪〜♪〜……」
……
…………
………………
寝ている俺の脇の下に妙な感覚が走った。何か冷たいものを挟まれたような……。
「ん……」
脇の下とパジャマの中の違和感に気付いて目が覚めた。相変わらず重い瞼をなんとか開く。
「あ……起こしちゃった?」
川内が、俺のパジャマの中に手を突っ込んでいた。このアホ……何やってるんだ……理由を推理したいが、頭にモヤがかかったようにハッキリしない。考えがまとまらない。
「なに……やってんだよ……」
「体温計」
「パジャマの中に手をつっこむんじゃないっ……」
「こんな時に何いってんの……」
色々と不味い……でも、俺の必死の口頭注意をまったく気にすることなく、川内は俺のパジャマの中に右手を突っ込んで、冷たい体温計を脇に挟んでいる。
数分の挌闘の後、俺の脇に体温計をはさみ終わった川内は、俺のパジャマから右手を出し、そのまま俺の頭を撫でた。
「はーい。じゃあそのままちょっと待っててねー」
「アホ……」
それにしてもうち、体温計なんてあったっけ……? それに、さっきまであんなに寒かったのに、今はそうでもないような……?
「この体温計……どうした?」
「ここ来る時に、パソコンと一緒にうちから持ってきた。なかったらマズいと思って」
その言葉通り、ベッドの隣りに置いてある折りたたみテーブルの上には、見慣れないノートパソコンが置いてあった。俺のものでもないし学習用ノートパソコンとも違うから、きっと川内が家から持ってきたものなんだろう。天板に大きく『夜戦主義』と書かれたステッカーが貼ってある辺り、こいつらしいパソコンだ。さっきは
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ