第37話<暖かい手>
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界だな」
私が言うと意外な反応が返ってきた。
「モットモダ」
「……」
接するほどに不思議な敵だ。
既に憲兵は居なくなった。日向は先に神社の外に出て周囲を警戒している。そして大丈夫という感じで軽く手を上げて先に軍用車に向かった。
私と深海棲艦も鳥居をくぐって外に出た。そのとき呟くように彼女が言った。
「オ前ハ、モット暖カイナ」
(それは……日向と比べているのか?)
空襲警報は断続的に続き、お台場の機銃の発射音が響きわたっている。岸壁では陸軍が慌しく動き回っているようだ。自走式の高射砲も出てきた。
私たちは、それには構わず軍用車に乗り込んだ。深海棲艦を先に助手席に乗せて私は車のポケットから手錠を取り出した。それが何であるか深海棲艦も直ぐに察したようだ。少し警戒して身を引いた。
私は釈明するように言う。
「悪く思わないでくれ。これは軍の決まりだ。それに陸軍に見つかった場合これが無いと逆に疑われて厄介だからな」
「……」
彼女は今回も意外な反応を見せた。つまり黙って私にされるまま手錠をはめたのだ。私は「済まない」と言いつつ手錠の一方を軍用車の手すりにはめた。
「ガチャッ」という冷たい音。
「……」
相変わらず無表情な『彼女』。
だが不思議なのは神社の中で見せた程の抵抗感が見られないことだ。それは気のせいだろうか? 或いは、もう抵抗するのは観念して諦めているのだろうか?
日向は軍用車の荷台に飛行甲板を固定してから銃座に上がった。それから上空を見上げて瑞雲に『警護しながら鎮守府へ向かうように』との指示を出している。
無線機からは陸軍と美保鎮守府からの無線が入り乱れる。大淀艦隊も必死に回避している状況が断片的に伝わって来た。
「グズグズしていられないな」
「はい……こちらの機銃の準備はOKです」
日向が報告する。
「よし」
私は車を発進させた。
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