暁 〜小説投稿サイト〜
大淀パソコンスクール
その名は岸田。小説家志望

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入校前に一度ここに顔を出した時の、大淀さんと岸田さんのやりとりの一コマだ。このセリフを聞いた時、俺はどうにも嫌な予感がしていた。その予感があたってなければいいのだが……

 OSが立ち上がり、画面にデスクトップが表示された。

「では岸田さん、パソコンの基本操作の確認をしていきましょうか」
「大丈夫です! 常日頃使ってるんですから!!」
「ですよね。まぁ大丈夫だとは思うのですが、念の為という感じですかね」

 んー……嫌な予感が当たりそうな気がする……。

 この教室では、パソコン経験者の生徒さんの場合、まず最初に『どの程度パソコンを扱えるか』ということを確認する決まりがある。この結果を元に、今後のカリキュラムの組み立てや指導方法を決定していく。

「ではまず、ゴミ箱を開いてみましょうか」

 俺はあえて具体的な操作を指示せず、ただ『開く』とだけ言ってみた。

「『開く』とは?」
「『開くとは?』と聞かれても……『開く』は『開く』としかいえません……」
「んー……分かった!」
「はい。じゃあやって……」
「『開く』ってのは、『グバッてする』てことだな!?」

 ……ほわっつ?

「えーと……逆にお伺いしますが……その、『グバッてする』とは……?」
「なんだ……先生なのにそんなこともわからないのか……。『グバッてする』てのは、『グバッ』てするってことだろう」

 ……はじめてパソコンを触ってから今日まで、かれこれ10年以上になるが、『グバってする』て操作は、俺は初めて聞いた。そんな操作があったのか……?

「えーと……じゃあ、ちょっと『ぐばっ』てしてみましょうか」
「なんでやらなきゃいけないの?」

 うわめんどくせえ……。

「確かに俺は、その『ぐばってする』てのはよくわからないんですけどね?」
「そもそも俺が知りたいのはWordの操作の仕方なんだけど……?」
「Wordの授業に入る前に、岸田さんがどれぐらいパソコンを使えるか知りたいんです」
「知ってどうするの? そもそも俺は、パソコン歴は2年ぐらいあるよ?」

 そんな人が『ぐばってする』とかよくわからない言葉を使うはずがない……その言葉が喉まで出かかったが、俺はなんとかしてその言葉をこらえた。

「……ッ……ツオッ」
「ん?」
「と、とにかく、ゴミ箱をひら……ぐばっ! てして下さい」
「仕方ないなぁ……」

 岸田さんは、俺の指示が腑に落ちないようだ。しかめっ面をしながら、ゴミ箱のアイコンにマウスを持って行って、カチカチとダブルクリックしていた。途端に開く、ゴミ箱のウィンドウ。

「はい。グバッてしたよ?」

 こちらを見てそう答える岸田さんは、盛大なドヤ顔だった。

「っく……ッ……ク!!」
「?
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