前夜
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アインクラッド第二十五層。攻略のクォーターポイントと呼ばれていただけあって、主街区はまるでここが浮遊城の首都だと言わんばかりに賑わっており、その中心にはかの《血盟騎士団》の居城が居座っている。とはいえ、リーダーが権威より合理性を優先していくタイプだったため、本部は他の層へと転々としていくことになったのだが。
そんな《血盟騎士団》の最初の居城の入口となる門は、彼にとって華々しい英雄としての始まりとなるべき場所だった。いや、なるはずの場所だった――というべきか、とにかく彼は、その門戸の前に立ち尽くしていた。
「もう俺はノーチラスじゃない……今の俺はエイジだ……」
エイジは自分に言い聞かせるように、重く重くそう呟いた。この門戸を開けたにもかかわらず、恐怖で足が動かなくなってしまった、あの頃の自分とは違うとばかりに。試しに《血盟騎士団》の門に触れてみようとするが、所詮は《オーグマー》の拡張現実によって再現しただけの、架空のアインクラッド。当然ながら、エイジの手には何の手応えもない。
「ユナ……」
あの日、彼女の応援を受けてエイジは《血盟騎士団》の一員となった。心配を心中に溜め込みながらも、エイジの選択を許してくれた彼女の表情は、今なお目をつぶるだけで思い出せる。ああ、自分はこの笑顔を取り戻すために戦うのだと、そう確信することが出来た。
『ユナにお前を止めてほしいって頼まれたんだ』
――だが、今は違う。いくら振り払おうとしても、エイジに聞こえてくるのは、そんな忌々しい声ばかりだった。アレは自身を上書きされたくないプログラムの自己保存的な行動であり、むしろ計画が順調に推移していることの証だった。さらに生還者の記憶を手に入れることが出来れば、さらにあのプログラムはユナに近づいていく。
『お前の方がよっぽど分かってるだろう! アレが『ユナ』なのか、そうじゃないのか!』
理性はそんな風に理解しているはずなのに。ユナのことを何も知らないあの男は、ユナの言葉を騙っている自己保存プログラムに踊らされているだけで、まるで聞くに値しないということを。しかして理性とは別の本能は、エイジの自意識を越えて勝手に叫んでいた。
――アレは自己保存プログラムの言葉なんかじゃなく、紛れもないユナの言葉そのものだ、と。自分がユナの言葉を聞き間違えるはずがない、という確信は、更なる思考へとエイジを誘っていく。ユナを前線に焚き付けた《銀ノ月》がユナを殺した? ……違う、ユナを実質的に殺したのはただのモンスターであり、さらに言うならば……エイジ自身でもあった。
あの日。エイジは死の恐怖を克服できずにボス戦のメンバーから外されていた時、他のプレイヤーから仲間を助けて欲しいと頼まれた。あるエリアボスがいるダンジョンの一角にその
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