第35話<針のムシロ>
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い少女の瞳にしか見えない。
「ワカラナイな」
私は呟いた。私たちは、いったい誰と、なぜ戦っているのか?
「……」
「……」
また、お互いに沈黙した。
相変わらず境内のセミがうるさい。神社上空では瑞雲が警戒を続けている。このまま瑞雲を上空で待たせるのは悪いな。
それに小さいとはいえ、ぐるぐる回っている飛行機を見れば、さすがに陸軍も変に思うだろう。あまり長引かせると憲兵が調べに来るかも知れない。
海軍の提督でありながら今の私は純粋に彼女を助けたい気持だ。陸軍からは「海軍は腑抜けだ」と呆れられるだろうが。
だが、きっと彼らは深海棲艦が、ここに居ると知れば目の色を変えるだろう。役立たずの機体や戦車の残骸ではない。彼らが喉から手が出る程、欲しい「生きた」資料。ランクから言えば最上級だ。
ただもし彼女が陸軍の手に渡ってしまえば尋問や拷問どころではない。連中は本当に人体実験をやりかねない。陸軍の特殊部隊の噂は知っているぞ。あそこは怖いなんてもんじゃない。残虐、冷酷、非道……。
旧来より捕虜の扱いでは陸軍省と海軍省が何度も衝突している。一度、お互いの議員が国会で掴み合いのケンカになったこともある。それくらい政治での陸と海は微妙な関係だ。
ただ地方の陸軍、特にこの山陰地方の兵士たちは誰も温厚そうなのが助かるが。
……目の前の彼女は護りたいな。
私はダメもとで、もう一度、突っ込みどころを変えて声をかけてみた。
「このまま留まって、お前たちの仲間が迎えに来るのか?」
「……」
反応なし。どうやら、その当ては無いらしい。
私は軽く腕を組んだ。
もしかして抵抗しているのは、こいつの単なる意地なのか?
(もしそうだとすると逆に、話が通じる相手なのかもしれないな)
そう思った矢先、上空の瑞雲のエンジン音が微妙に変化した。セミが急に鳴きやみ日向が慌てて走りこんできた。
「司令!」
「どうした!」
神社周辺には、急にバタバタとした慌ただしい気配が漂ってきた。
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