巻ノ九十二 時を待つ男その十二
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「拙者の免許皆伝はかなり上にあるが」
「その上のところまで」
「望月殿を引き上げでみせようぞ」
「ではそれがしも」
「共に修行をしつつか」
「それを見極めさせて頂きます」
立花に答える声は不偏のものがあった。
「拙者も」
「それは見事、して源次郎殿は書を持って来られてもおるな」
「ご存知でしたか」
「読まれている時を見た」
「実は呉子と六韜を持ってきました」
「七兵法書のうちの二つをか」
「いつも旅の時も書を読む様にしております」
「学問は忘れぬか」
「そうしてもおります」
「左様か、拙者より学んでおるな」
軍略については本多忠勝と並び称される立花もこのことには唸った、彼のその学問にも打ち込む姿を見て。
「武芸だけではなく」
「常に心掛けております」
「拙者より上だな、間違いなく」
「立花殿よりも」
「真田殿の軍略は知っておる」
立花も、というのだ。
「見事じゃ」
「左様ですか」
「しかしそれに飽き足らずさらに学ぶとは」
「それは立花殿も同じでは」
「いや、拙者は旅先でまで書を持って来て飲むなぞな」
そこまではというのだ。
「せぬ」
「だからですか」
「拙者より真田殿の方が上じゃ」
「そう言って頂けますか」
「事実そう思っておる、それにな」
「それにとは」
「貴殿の様な御仁とそな」
笑みになりだ、幸村にこうも言ったのだった。
「戦をしたいのう」
「いくさ人として」
「ははは、これは思うだけじゃがな」
「それがしをそこまで買われるとは」
「貴殿は戦にになれば必ず名を残す」
確実にとだ、立花は太鼓判を押した。
「その戦い見せてもらうぞ」
「ではその時が来たならば」
「存分に戦われるな」
「この者も含めて」
ここでも望月を見て話した。
「そうします」
「そうするか、ではその戦ぶり見せてもらうぞ」
「さすれば」
「そして死ぬでないぞ」
「その戦で」
「十一人が共に死ぬと誓ったのであろう」
「はい」
幸村はこのことについてはだ、これまでになく強く答えた。
「そうします」
「ならばじゃ」
「その戦で、ですか」
「全員が揃って死ぬ様な場でないとな」
「死ぬことはですか」
「するものではない」
「然るべき場で、ですか」
幸村も立花に応えて言った。
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