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真田十勇士
巻ノ九十二 時を待つ男その八

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「身体の真ん中こそがじゃ」
「人の急所のですな」
「集まりじゃ」
 そうした場所だというのだ。
「上から下までな」
「だからですな」
「そこをどう狙うかじゃ」
「それが体術ですな」
「うむ、例えばじゃ」
 立花はここで手刀を出した、望月はそれをかわしたが。
 かわしてだ、こう言った。
「今のは」
「眉間を狙った」
「若し眉間をやられていれば」
「命はなかった」
「そうでしたな」
「眉間に目と目の間、額、鼻、顎とな」
「顔だけでもですな」
「急所は多い」
 その真ん中にはというのだ。
「実にな」
「そうですな」
「喉もじゃ」 
 立花は今度はそこを狙ったがだ、望月は今度もかわした。
「ここもじゃ」
「確かに。一撃でも受ければ」
「死ぬな」
「先程の一撃では」
「だからじゃ」
「それで、ですか」
「ここも狙うとよい」
 喉もというのだ。
「わかったな」
「相手の急所を攻める」
「真ん中にあるな、そして」
「はい、真ん中にある急所は多い」
「どれか一つを狙わねばならぬというものではない」
 そこは決して違うというのだ。
「無論真ん中以外にも急所はある」
「人の身体には」
「その空いている場所を狙って攻める」
「それが体術の極意ですか」
「そうじゃ」
 立花は望月に確かな声で話した。
「そこを抜け目なく攻めてじゃ」
「そうして倒していくのですな」
「それが体術の極意じゃ」
「そういうことですな」
「御主の体術は確かに見事じゃ」 
 望月のそれはとだ、立花も認めた。
「既に一騎当千の域、しかしな」
「一騎当千以上のですな」
「域に達するにはじゃ」
「そうしたことも覚え戦う様になる」
「そうじゃ、そうしていけばな」
「さらに強くなりますか」
「拙者以上に強くなる」
 その立花以上にというのだ。
「だからな、そこもわかってじゃ」
「そのうえで」
「全てを備えた時にじゃ」
 まさにその時にとだ、立花は望月に話した。
「免許皆伝を授けよう、しかしな」
「免許皆伝でもですな」
「それで終わりではない」
「承知しております」
 このことは最初からだとだ、望月は立花に確かな顔で答えた。そうしつつ素手で激しい組手を続けている。手足が絶え間なく動いている。
 そうしつつだ、望月は立花に答えた。
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