第34話<敗残兵>(改2)
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はい」
彼女としては飛び道具は好みではないだろうが念のためだ。
私たちは、ゆっくりと神社の境内に入る。セミが大声で鳴いていた。まるで合唱だな。
中を見渡して日向が小さく叫ぶように言った。
「司令!」
「ああ」
そこでは意外にあっさりと深海棲艦(大井・仮)が発見された。社殿の正面、階段の中段に苦しそうに寄りかかっていたのだ。
武器は持っていないようだ。こちらを一瞬睨んだだけで特に攻撃する意思も、逃げる気も無いようだ。
私は視線を逸らさず片手を日向に向けて指示を出した。
「日向、銃を下ろせ」
「はい」
二人とも念のため引き金には指をかけたまま、ゆっくりと『彼女』に近づいた。深海棲艦は苦しそうに肩で息をしていたが、やはり大きな動きは見せない。
この炎天下の陽気と日向に受けたダメージ。それに逃亡時の疲労や緊張から来るストレスなど、いろんなものが一気に噴出しているようだ。
「痛々しいな」
私は思わず呟くように言った。
「陸軍や憲兵より先に見つけて良かった」
日向もボソッと呟いた。
「瑞雲が来たのはタイムリーだったな」
私もホッとした。瑞雲を寄こすという判断をした秘書艦・祥高の判断は、さすがとしか言いようがない。
そう思いながら、ふと見ると日向は複雑な表情をしている。自分が蹴飛ばした相手が目の前で苦しんでいるのを見れば、それが敵であっても多少は良心の呵責を覚えるのだろう。必死だったとはいえ日向も多少、やり過ぎたかも知れない。
決して責めるつもりは無いが「本気」出してたよな……まぁ、お互いに兵士だ。敵と相対すれば何処でも戦場だ。必死になるのは避けられない。今はただ、この戦争に巻き込まれている自分たちの運命を呪うしかない。
「日向、気にするな。すべて私の責任だ」
今さら無意味かも知れないが私は一言、声をかけた。
「……」
さすがの日向も、やりにくいだろう。私も最近では少しずつ艦娘たちの敏感さを感じるようになっていた。
私は銃をしまうと、さらに深海棲艦に近づいて様子を窺った。境内の彼女は私たちへ向けて、ゆっくりと顔を上げた。
ふと目が合った。
「……」
今朝、路地で出会ったときの挑戦的な眼差しはすっかり消えていた。むしろ何かに怯えるように不安と恐怖が入り混じった弱々しい表情だ。
「オ前タチカ」
絞り出すような声……やはり相当ダメージを受けているようだな。
それでも、まだ多少は私たちに抵抗するような反抗的な光は残っている。
「……」
だが、それ以上は何も言わず乏しい表情でこちらを見つめている。もはや現実的に、これ以上抵抗しても無駄であるし戦う体力も無いだろう。
そういう立場は、お互いよく分かっているのだ
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