274部分:第二十三話 楓、思い出すのことその五
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第二十三話 楓、思い出すのことその五
「この世界の乙女達はそれに気付いているだろうか」
「気付かなくとも時が来れば気付くじゃろうな」
翁はそのことには楽観している向きがあった。
「やがてな」
「その時になればか」
「そうじゃ、その時は必ず来る」
また嘉神に話した。
「そのことは特に心配することはない」
「そうか」
「うむ、そしてじゃ」
また言う翁だった。
「今度の戦もじゃ。激しいものになるな」
「西の騎馬民族ですね」
楓が問うた。
「今度は」
「左様じゃ。強いぞ」
翁は楓に対して答えた。
「用心してかからねばな」
「はい、わかりました」
楓は翁のその言葉に素直に頷いた。
「それでは」
「それでだが」
今度は示現が言ってきた。
「少し休憩にするか」
「休憩か」
「そうだ。朝から歩き通しだ」
こう翁に告げる。
「我等はいいが兵達はな」
「そうだな。馬に乗っている者も多いにしてもな」
嘉神も話す。
「それでもな。馬も疲れるからな」
「今疲れてはどうにもならない」
また言う示現だった。
「だからだ」
「よし、そうじゃな」
翁はここで言った。
「ここは休憩じゃ」
「そうするか」
「いい時間じゃしな。食事にしよう」
こうも言うのだった。
「さて、何を食べるかじゃが」
「干し肉にするか」
嘉神はそれだというのだった。
「それと餅だな」
「餅?あれですね」
「そうだ」
嘉神は楓の言葉に応えた。
「あの餅だ」
「小麦の生地を焼いたあれですか」
「あれを餅というのじゃな」
翁も少し不思議そうに言う。
「ここでは」
「そうだな。餅といえばあの米のものだと思っていたが」
これは示現も同じだった。
「しかしそれとは別の餅もある」
「何か不思議ですよね」
楓はまだいぶかしむ声だった。
「それも餅だなんて」
「しかし食べられる」
嘉神は最初にこう述べた。
「しかも美味だ」
「確かに」
「火はある」
嘉神は次にこう言った。
「私の火を使うといい」
「朱雀の力か」
「こうした時にも使わなくてはな」
そしてこうも言うのだった。
「術はな」
「普段にもですか」
「まあ悪事に使わなければそれでよい」
翁の考えは寛容だった。
「少なくとも今の御主にはそれはないな」
「私は一時人というものを誤解していた」
嘉神は今はかつての自分を振り返っていた。
「人は醜く汚れたものだと思っていた」
「しかしそうした一面もあるということにですね」
「それがわかった。人は不思議なものだ」
楓にも言葉を返す。
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