何でも太陽と夜戦で片付けようとするのはやめろ
昼
[1/3]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
出勤日二日目。今日は昼すぎから授業だ。おじいちゃんおばあちゃんたち5人に対し、俺とソラール先輩の二人で教室内を徘徊しながら、みんなからの質問をさばいていく。
「先生、文字を太字にしたいんだけど……」
「このぶっとい『B』て書いてあるボタンをポチッと押してください」
「おーこれかこれか。ぽちっ。……ならないよ?」
「太くしたい文字を選択してあげないと、Wordに『文字を太くして!』て言っても、『どの文字かわかんないよー』てなるだけですから。まずは太くしたい文字を選択してあげましょう」
「あーなるほど。ずりずりっと……」
「おっけーです」
俺にフォントを太字にするやり方を教わったおじいちゃんのコウサカさんは、ぷるぷると震える右手で苦労しつつ『御徒町』の文字列を選択し、ぶっといBのボタンをクリックして太字にしていた。太字になった途端に『ぉお〜。できたできた』と実に嬉しそうな笑顔でほくほくしていた。
生徒であるおじいちゃんおばあちゃんたちは、こちらに対して他愛ない……それこそ、画面を見ればなんとなくやり方がわかるような方法でも、ひっきりなしにこちらに質問をしてくる。最初は辟易していたわけだが……
「太字にしたやつを『やっぱやーめたっ』て元に戻すことはできるの?」
「できますよ。元に戻したい文字をやっぱりズリズリと選択して、もう一度ぶっといBをクリックしてあげてください。元に戻ります」
「ぉお〜、元に戻った。いやぁ〜パソコンってのはかしこいねー」
こんな感じで、こちらにとっては他愛無い操作に対し、一つ一つ感動して顔をほころばせている。そんな表情を見るのが、なんだか楽しくなってきた。パソコンの先生っつーのも楽しいな。悪くないぞこの仕事。
ソラール先輩も剣と盾を持ったまま、妙な歩き方で教室内をうろうろと動きまわり、質問が来る度に鎧の音をちゃりちゃりと響かせて、生徒さんの元に走って行って質問に答えていた。時々『ガチャドチャリ』と盛大な音を立てて、前転して背中から着地してるのは一体何だ。何かの儀式か? それとも見えない何かを避けているのか?
今日は生徒の一人、モチヅキさんがWordではなくExcelの勉強をしている。先ほど『オートフィルが……』というソラール先輩のくぐもった声が聞こえてきてたから、まだ習い始めのようだ。
「この『おーとふぃる』っつーのは便利でええの〜」
「計算式はもちろん、1,2,3のような連続したデータを入力する際には非常に便利だ。Excelを扱う上では必須といえる操作なので、何度も繰り返して、太陽が東から空に昇るかのごとく、自然に行えるようにしておくといい」
……だからなぜいちいち太陽に結びつける?
「数字や計算式以外には、何かこの『おーとふぃる』で入力できるのかな?
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ