第4章
1節―変わった世界―
遅すぎた代償
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不意に、クイクイと服を引っ張る感触をソウヤは感じ、その方向へ視線を向けた。
「――兄ちゃん」
「…どうしt」
パンッ!!
軽快な音が鳴って、ソウヤは軽く体が空に浮くのを感じた。
ついでに同時に襲い掛かる、左頬の熱も。
そして、ソウヤは自分が引っ叩かれたと知る。
たたいた張本人を見れば、ボロボロの衣類を着たおっさんが右手を振りぬいていた。
「…俺には、家族がいた」
「――――――」
その言葉に、ソウヤを含めこの場の全員が絶句する。
あまりに重々しい言葉に、誰もが家族がいなくなったことを異様なく突きつけられたのだ。
「大切な仲間が居たし、一緒にバカ騒ぎする奴らが居たし、愛する嫁が居たし――」
涙ながらに呟く壮年の男性は、震える唇で息を吸う。
「――希望である、娘がいた」
「――――――ッ…!」
誰もの涙腺に、それは響いた。
唐突に嗚咽を漏らす人であふれ、憎しみは悲しみとなって吐き出される。
「兄ちゃんのことは絶対許さない。子が親よりも先に死ぬなんて、絶対に許されないはずだ」
「ぁ…」
当たり前の言葉に、ソウヤの心は穿たれた。
何の言葉も出てこない。
「すまなかった」も「ごめんなさい」も、この場ではまったくの意味を持たないと知ったのだ。
目を大きく開き、口を震わせるソウヤに「でも――」と男性は続ける。
「さっきの分で、とりあえず我慢してやる。だが、約束してくれ」
最後にそう言う男性の瞳は悲壮よりも願望が多く籠っているように、ソウヤは見えた。
”約束”の内容もわからないのに、ソウヤはしっかりとした動きで男性に向かって頷く。
少しでも、罪滅ぼしをしたかったから。
「俺たちをこんなにした、アイツらをぶっ飛ばしてくれ」
「――――――」
力強く発せられた彼の言葉に、ソウヤはまたもや絶句する。
父も母も、奥さんも娘も亡くした彼は、それでも他人を思いやったのだ。
ソウヤの視界が歪み、嗚咽が漏れる。
「あぁ…!あぁ…!約束、する…ッ!」
「そう、か…。それならいい」
安心するかのように男性はため息をつくと、我慢が出来なくなり涙を流し続けるソウヤの肩に手を置く。
「俺らのことは俺らが何とかする。だから、行ってくれ」
「え――?」
男性の言葉に、ソウヤは惚けたようにおかしな言葉を吐く。
安全な所まで送らなくて良いのか、生きていけるのか。
そんな疑問を余所に男性は優しげに笑う。
「子供は誰でも失敗する、違うか?」
「俺は…20だ」
たった20か、と男性はポンポンとソウヤの頭を軽く叩く。
「お前の年じゃまだ子供だ。そして、子供の背中を支えるのは大人の役目だ
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