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第九十話 狂乱の始まりです。
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ラが立ち上り、それは議事堂の壁に沿って広がりを見せていたのに気が付いた者はいなかった。
「私は確信をもって言いますが、遠からずして自由惑星同盟は帝国軍に決定的なダメージを与えられるでしょう。すべてはイーリス作戦発動のため。回廊の戦いはその開幕式にすぎません。この作戦は同盟軍史上最も壮大でかつ崇高な大義の下に行われるでしょう。そう、あのダゴン星域会戦以上になることを、自由惑星同盟建国に匹敵する大業になることを、私は皆さまに保証いたしますわ。」
ここまで大っぴらに、かつ大胆に宣言されることなど、どの議員も経験しなかったことである。いつの間にか一同はかたずをのんで見守っていた。そうせざるを得ない圧倒的なオーラがシャロンからあふれていたのだ。もちろんそれは彼女が意図的に放出したものにほかならなかったが。
「皆さまはこの国を愛していらっしゃいますか?」
シャロンが呼びかける。その呼びかけには奇妙な甘い香りが伴っていた。それはアルコールを摂取した時の心地よい酔いを引き起こすものだった。
「皆さまは自由民主主義の理念を愛し、それを守りたいと思いますか?」
一同が麻酔にかけられたかのようにうなずく。それに向かってシャロンが両手を広げる。
「今や準備は整いました。帝国軍は遠からず回廊内から同盟領内に進攻してくるでしょう。それを奥深く誘い、限界点に達したところで完膚なきまでに殲滅するのです。あなた方はその瞬間に立ち会うことができる。後世の人々はあなたたちのことをこう呼ぶでしょう。『民主主義の理念を守り、大義の旗を掲げた戦争に勝利した偉大なる指導者たち。』と。」
おお、という声にならない声が議場を満たした。今やシャロンの魔力は議事場を支配し、甘美な甘い言葉で議員たちを包み込んでいる。
「ええ、皆様の抱える一抹の不安も十分にわかりますわ。」
シャロンは優雅に、優しげに頷いて見せる。その瞬間彼女を見る人間すべてがこう思うのだ。
彼女は我々の不安、恐れのすべてを知っている。彼女はそれをすべて受け止めてくれる、と。
「当然、それには有人惑星は犠牲になるでしょう。しかし、それが幾百年の恒久的民主主義の理念の勝利につながるとしたら?それは無益な犠牲であると言えるでしょうか?」
「・・・・・・・。」
「帝国を打倒し、そこに住まう貴族たちに虐げられ続けてきた民衆を解放することにつながるとしたら?それは無益な犠牲であると言えるでしょうか?」
「・・・・・・言えない。」
誰かがつぶやいたが、それはむろん誰にも聞こえなかった。だが、そのつぶやきには狂乱の眼差しが伴っていた。
「宇宙を統一し、再び民主主義国家を立ち上げ、誰一人不平等に扱われず、誰一人虐げられることのない国を作ることにつながるとしたら?それは無益な犠牲であると言えるでしょうか?」
「言えない・・
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