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第九十話 狂乱の始まりです。
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帝国歴487年10月15日――。
自由惑星同盟では近年ある人物への期待が高まっている。エル・ファシルの英雄でもヴァンフリート星域会戦での英雄でもなかった。
シャロン・イーリス中将である。統合作戦本部の作戦部長としてアーレ・ハイネセンを駆使した大戦略を構築し、表立って出ないものの、その言動は既に世論によく知られていた。賛否両論あったがこの場合賛成が圧倒的だった。彼女の歯に衣着せぬ物言いは自由惑星同盟市民から崇拝と尊敬の念さえ持たれていたのである。これはシャロンが裏からカトレーナを通じ、情報を操作して「意図的に操作した印象」を徹底的に市民に刷り込んだからにほかならない。同盟市民や軍の下級兵士たちの中には、早くも彼女を「次期にして初の宇宙艦隊司令長官、若しくは将来初の女性統合作戦本部長」とする期待と機運が満ち満ちていた。
彼女が既に政財界はじめ各界に「シャロン派」を構築していることは既に述べた。
その各シャロン派があらゆるメディアを通じて彼女を取り上げ続けたが、当の彼女は表向きはメディアに出たがらない、軍人としての職務を貫くという姿勢を取り続けたため、ますます評判が高くなった。
その政財界やメディアを操作しているのは他ならぬ彼女であり、そのプロパガンダが行きつくところはもはやある一点しかないのだった。彼女の前ではヨブ・トリューニヒトすらも霞み(トリューニヒトは一命をとりとめていたが未だ獄中の中であった)、最高評議会議員ですらかすんでしまう。
今まで水面下でのみ動いていた彼女が、ついに表舞台に立つべく動き始めたのだった。
これを見ていたごく一部の「良識派」は危惧を覚えていた。極論を言えばシャロンがあのルドルフのように独裁権を確立するのではないか、と思い始めたのである。
ことシドニー・シトレ大将やブラッドレー大将は、以前ひそかにマーチ・ラビットで会合の際に話し合われた内容が現実味を帯びてきたことに関して愕然とするとともに、それに対する手立てを模索し始めたのである。
だが、彼らが行動に移る前にある一矢が統合作戦本部に突き立った。他ならぬダニエル・ブラッドレー大将がアーレ・ハイネセン遠征作戦の失敗に伴って辞任を余儀なくされたのである。国防委員長アラン・マックナブも辞任したが、彼は後に大手エネルギー・プラント会社の副総裁の地位に納まったことを考えれば、標的がブラッドレー大将ただ一人だったことは否めない事実だった。
辞任を要求された時、ブラッドレー大将は、
「女共を、孺子共を頼んだぞ、シトレ。」
とだけ言い残し、さっさと統合作戦本部長席を明け渡してしまったのだった。
「参ったものだよ。」
シドニー・シトレ統合作戦本部長代理はヤンを自分の執務室に呼び寄せていた。ブラッドレー大将がアーレ・ハイネセンの敗戦の責任を取
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