暁 〜小説投稿サイト〜
グランドソード〜巨剣使いの青年〜
第1章
3節―平穏を裂く獣―
儚い平和の時
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ことが出来なさそうな大木を軽く持ち上げて見せた。
 “力を十全に発揮できない状態”で、だ。
 更に、ソウヤは自身を“異世界人”と名乗り『軍勢の期』を防いで見せたという。

「ソウヤさんの力は、あまりにも強すぎる」
「うむ」
「でも――」

 明るく、優しい。
 そんな彼に“あの責任”は重すぎる。

「――ソウヤさんが、“―――――――”とは思いたくない…です」

 もし“責任”を負ってしまうのならば、普通の人のメンタルならばすぐに潰れてしまう。
 いや、これほどの“責任”はどの物語の英雄や勇者でさえ重く感じるものだ。
 それをただ“力が強いだけの一般人”に任せることに、ルリはひどく躊躇している。

「ルリや。ソウヤ君は今、“元の世界”に戻りたがっている」
「え…?」

 唐突にリク老人からの言葉に、ルリは固まった。

「今は、皆から頼られることで心身が安定している。じゃがの、それも長くは続かない。永住なんて、今の彼にはあまりにも禁句がすぎるのじゃよ」
「彼は“元の世界”を嫌っている…と聞きました」

 元の世界に帰りたい。
 それはあまりにも正しい判断だ。
 “強大な力”をもってさえいなければ。

「人の心は揺らぎ。じゃが最奥にある物は決して覆らない。彼は、今“安心感”を欲しがっているのじゃよ」
「だから、最も安全だった元の世界に戻りたい…と?」

 コクリと頷くリク老人にルリは返す術を持たない。
 ここまで言われれば最後、受け入れるしかないのである。

「ルリ。これからお主はソウヤ君を助け、護ることになる」
「…はい」

 “護る”。
 その9割がたは、“物理的”ではないことをルリは知っていた。

「“物語を破壊せよ”。そのために動け。それが、“安定”をもたらす」
「それが、『神聖森(しんせいしん)の守護者』の…私の宿命」

 ルリは恐怖と、罪悪感と、怒りに手を震わせて呟く。

「わかって…います」
「すまぬ、ルリや」

 その夜の密談は、リク老人の一言をもって終わった。




 闇夜に佇む、その者達を隠しながら。

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