第31話<新緑と赤面>
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。しばらく公園の木立の葉が風でザワザワとさざめく音だけが聞こえてくる。
敵機も低い音を響かせながら遥か遠くを周回し続け、空襲警報も収まっている。
やがてセミが鳴き始めた。思い出したように私は言った。
「行こう」
「ハツ」
突然スイッチが入ったように返事をする日向。別に行くアテもないが……車を降りた。
「えっと」
手で日差しを避けながら公園を見渡す。さすがに陸軍の高射砲が見える場所は落ち着かないから却下。
左手に桜の木が植わっている小高い丘がある。私は過去の記憶を思い出した。
「そこの高台にベンチがあるはずだから上がってみよう」
「ハツ」
杓子(しゃくし)定規な日向は簡易甲板を抱えて降りようとした。
「おい、それを持っていくのか?」
「ハイ」
さすがにそれはちょっと……と思った。
「荷台に置けば大丈夫だろ? 艦娘にしか使いこなせない物だから誰も盗らないよ」
「はい」
日向は抵抗することも無く、若干ぎこちなく甲板を置く。
それから改めてサンドイッチを持って降りた。
ふと見ると、お台場公園の白い灯台は今でも木々の中に鎮座している。
「懐かしいな」
私の言葉に日向は顔を上げた。
「ここは司令の?」
「ああ、故郷だからな」
今日は断続的に空襲警報がある。陸軍の高射砲……そういえば敵に破壊されて今は修理をしているが、その周りでは兵士が更に小さな機銃を数台設置して待機している。
私たちは高台への階段を上がった。ちょっとした木立の中に小さな白いベンチがあった。
「腰掛けよう」
「はい」
最初に私が座り、続けて日向が腰をかけた。
目の前に岸壁の一部が見え陸軍が作業をしている。その向こうに川のような境水道が流れ、対岸には新緑の島根半島が横たわる。
公園を渡る風は湿気が少なく心地良い。
私たちは、お互い軍服だから憲兵が来ても何も言われないだろう。
ただ瑞雲の調整名目があるとはいえ艦娘(女性)相手に二人っきりで公園でランチとは実に妙な感じだ。
元々日向は口数が少ない艦娘だ。それでもさすがに間が持たないので私は声をかけた。
「どうした? 今日は無理しすぎて体調を崩したか?」
「いえ……実は作戦以外で司令と二人で外を歩くのは初めてです」
「そうか? 一応、これも作戦中なんだが」
そう言いながら愛想が無いなと自分で思う。
日向は苦笑する。
「済みません、こういう状況は慣れないもので」
「え?」
それは、どういう状況だ? ……何が不慣れで赤い顔をしているのだろうか?
表情は淡々としているのだが、いつもと違ってソワソワした口調で会話を続ける彼女。
「岸壁で食べた方が時間的にも早いのは分かっていまし
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