暁 〜小説投稿サイト〜
フロンティアを駆け抜けて
全ては皆の笑顔のために
[1/13]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話
どれくらいダイバによる絶叫と絶望の混じった泣き声、いや叫び声が続いたのかジェムにはわからない。十分程度の出来事だったかもしれないし、一時間近かったかもしれない。ただはっきりしているのは、子供の涙というのはどれだけ激しくてもスコールのように長くは続かないものだということだ。はいつくばって泣いていた声が唐突に静かになり始め、徐々に嗚咽となり、それも数分もしないうちに止まった。卵の殻を突き破り這い出る雛のようにもぞもぞと、ダイバは立ち上がり泣きはらした目をこする。

「……ごめん、取り乱した。僕の負けだ」

 帽子とフードを被り直し、ダイバはそうつぶやくとドラコに肩を掴まれたままのジェムに歩み寄る。泣き腫らしたことで感情はフラットになっているのか、歩き方には澱みはなく、フロンティアパスからシンボルを四つ取り出す。ジェムもそんなダイバを見つめて、決着をつけた勝者と敗者が向かい合う。

「いいの。私も負けた時すごく悔しかった……辛かったから」
「これを渡せば君はチャンピオンと戦うことになる。……覚悟はいい?」
「うん、あなたに勝ったって事に恥じないように頑張るわ。……じゃあ、貰うね」

 自分が今慰めることはダイバにとって酷というドラコの言葉を信じ、ジェムは余計な言葉をかけない。ただその代わり、シンボルを持つダイバの手を取ってまるで健闘をたたえ合う握手のように優しく力を込めた。なかなか手を離さないジェムに、ダイバがいぶかしげな声をかける。

「ジェム?」
「……くだらないわがままだと思われるかもしれないけど、これで一勝一敗だから……ううん、これから何度だって、ダイバ君とまたポケモンバトルがしたいの。その気持ちだけは、受け取ってくれる?」

 ダイバの顔がぽかんと、年相応の子供らしい不思議そうな表情になる。手を口元にあてて少し目を逸らした後、ため息をついて答えた。

「……考えとく。ただもしそうなった時……やっぱり今日で最後にしとけばよかったって思っても知らないからね」
「ありがとう……だから、まだ私と一緒にいてくれるよね?」
「ジェムがそうしてほしいならそうする。ただ……」
「ただ?」
「いや……まずはシンボルが先だ。ジェム、フロンティアパスに全てのシンボルを」
「わかったわ。……じゃあ、やるね」

 ジェムはそっとシンボルを取って手を離し、自分のフロンティアパスを取り出す。今ジェムのフロンティアパスには三つ、そしてダイバに貰ったシンボルが四つ。ここに来てから夢見ていたシンボルの制覇を叶えて、ちょっと胸が温かくなった。今の自分には両親から貰って師匠が鍛えてくれたポケモンだけでなく、勝負の日々で一緒にいてくれるようになった仲間がいる。バトルファクトリーのシンボルをはめて、隣にいる人の顔を見る
[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ