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歌集「春雪花」
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 空翳り

  静けき夕に

   雨そふる

 あやめ濡れにし

    風待ちの月



 空が翳ったと思ったら、しとしとと雨が降り始めた…。

 夕の黄昏時…昼の暑さを和らげるように、雨は静かに降り続ける…。

 美しく咲いたアヤメにもそぼ降り、その花弁は力なく垂れる…。

 便りなぞありもしない…そう解っていても待つしかない私…。
 しかし…それさえも無駄と解っているのだが…。

 老いるだけの今…過ぎ去るだけの今日…。


 そんなことしか感じられない…六月の入りだ…。



 月影の

  なくばいづこに

    宿るらむ

 待てや白みし

    ねやの侘しき



 夜が更けても雲は晴れず…月明かりはどこにもない…。

 こんな時…月はきっとどこかへ泊まって休んでいるのだろう…。
 きっと…暫くしたらその顔を見せ、明かりを灯してくれるに違いない…。

 一人寂しく眠れぬ夜…そんな月明かりを待っていたら、空が白み始めて朝になってしまった…。


 彼のことを考え…想い…寂しさの中で過ごす部屋は、なんと心許なく物悲しいことか…。





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