第五章
[8]前話
「一時間だけ寝られれば充分だからな」
「一日で」
「そうだ、だからだ」
「起きても平気ですか」
「そして起きている間はな」
「学問に励まれますか」
「そうしている、起きていればしたいことをする」
まさにというのだ。
「それだけのことだ」
「凄い体質ですね」
サライも唸るばかりだった、もう寝たいのか眠い顔をして師を後ろから見ている。
「いつも思いますが」
「わしだけのものだな」
「そうですよ、ただそうして学問に勤しめるから」
それでとだ、サライは師に言った。
「先生は天才になれるんですね」
「学問に励んだだけか」
「そうですかね」
「少なくとも起きていれば学ぶ」
その間常にというのだ。
「考え絵も描く」
「それで、ですか」
「わしは今もこうしている」
「天才は自分が持っている時間が多いんでしょうか」
「わしが天才かどうかは知らんが起きている時間が多いことは確かだな」
「そういうことですか、じゃあ私はもう寝ますね」
「ではな」
弟子に学問に集中したまま応える、そしてだった。
彼は弟子が自身の寝室に入ってからも学問に励んだ、それは朝まで続き朝になると少し寝た。だがそれはほんの少し、十五分だけ椅子に座ったまま寝るだけだった。そしてまた学問に励むのだった。
レオナルド=ダヴィンチは一日一時間、十五分ずつ四回に分けて寝る程度だったと言われている。起きている間の時間を使って学問や研究に勤しんでいたのかも知れない、そしてそれが彼の多方面に渡る業績につながっていたのかも知れない。天才になるにも事情があるのだから。
天使の絵 完
2016・11・16
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