第二章
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「天使の絵が描けました」
「観て欲しいか」
ヴェロッキオはこの時も彫刻を造っていた、錐と金槌が手にある。
「今から」
「お願い出来ますか」
「わかった」
ヴェロッキオは弟子の申し出にすぐに応えた。
「ではな」
「はい、これからですね」
「その絵を見せてもらおう」
「それじゃあ」
こうしてだ、ヴェロッキオは弟子が描いた絵を観た。キリストの洗礼を描いた絵のその中にいる天使をだ。
絵の前に行って天使を観た、すると彼はまずは言葉を失った。
そしてだ、弟子に驚きを隠せない顔で尋ねた。
「これを御前が描いたのか」
「はい」
その通りだとだ、弟子は答えた。
「いいモデルの子がいまして」
「そうか」
「駄目でしょうか」
「駄目とは言っていない」
ヴェロッキオはその厳しい顔で答えた。
「むしろその反対だ」
「反対といいますと」
「よ過ぎる」
こう弟子に言うのだった。
「信じられない絵だ」
「そうですか」
「はっきり言おう、わしでもだ」
師匠である彼ですら、というのだ。
「ここまでは描けない、どうやら御前は天才だな」
「絵のですか」
「そうだ、御前に教えることはない」
こうまでだ、ヴェロッキオは弟子に言った。
「御前の好きなものを描くといい」
「じゃあ他のことも」
「芸術をか」
「していいでしょうか」
「構わない」
ヴェロッキオは弟子にこうも言った。
「好きにしろ」
「わかりました」
「わしはこのまま彫刻を彫る」
彼の仕事を続けるというのだ。
「だが御前はな」
「好きなことをですか」
「しろ、この絵なら何でも出来る」
それこそというのだ。
「だからだ」
「わかりました、では」
「うむ、その様にな」
こうしてだ、ヴェロッキオはその弟子には好きにさせることにした。すると弟子はまさに次から次にだった。
やってみてだ、その才能を発揮した。このことは忽ちのうちに様々な都市で噂になった、ヴェネツィアでもフィレンツェでも。
フィレンツェを治めるメディチ家でも噂になりだ、家の者が丁度仕事を頼んでいたヴェロッキオに対して尋ねた。
「あの者はそなたの弟子だったな」
「はい、かつては」
ヴェロッキオはすぐに答えた。
「そうでした」
「そうだったか」
「ですが」
「それでもか」
「あまりにも才能があり」
それが為にというのだ。
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