第四章
[8]前話
「そのままの方がいいものもあるのじゃ」
「江戸の様に」
「そして幕府の様に」
「そうならば下手なことはせずにじゃ」
そしてというのだ。
「このままでよいのじゃ」
「だからですね」
「上様のその様にされているのですね」
「生姜に白牛蘇を召し上がられ」
「夜のお勤めに励んでおられるのですね」
「そうじゃ、少なくともわしがおる間はな」
将軍でいる間はというのだ。
「このままでよいであろう、その方が民達も幸せじゃ」
「いや、今の江戸はです」
「何かと賑わっていまして」
「面白い本や浮世絵が出回っていて」
「食べるお店も多く」
「歌舞伎も浄瑠璃も楽しいです」
「服もどんどん奇麗になっています」
「そうであろう、幕府は民達に泰平の世を楽しませる」
家斉は飲みつつこうも言った。
「そうした考えであるからな」
「だからこそですね」
「このままですね」
「改革もせず」
「ご政道を進められますか」
「殆ど老中達に任せてな」
そうしてというのだ。
「これでよい」
「そういえば田沼様のご四男の方を」
女房の一人が彼のことを話した、実は家斉が重用している者の一人だ。
「大層」
「うむ、出来る者じゃからな」
「だからですか」
「用いておる」
「左様ですか」
「わしは越中とは違う」
そこはしっかりと言った。
「むしろあ奴の父親のやり方の方がじゃ」
「よいというのですか」
「民にとってな、あ奴も父親譲りじゃからな」
「重くですか」
「用いておる」
実際にというのだ。
「そうしておるのじゃ」
「そうなのですか」
「そういうことじゃ、では今宵もな」
家斉は楽しそうに笑って言った。
「楽しんでじゃ」
「お務めをですか」
「するとするか、今宵の伽の相手は」
笑いながら言う家斉だった、そうしてこの日も夜にこそ励むのだった。
徳川幕府第十一代将軍家斉の評判は決していいとは言えない、五十五人の子をもうけたことからとかく好色だと言われている。贅沢好きの為幕府の中に賄賂が横行し規律も緩み所謂財政危機に陥らせたと言われている。
しかしこの時代江戸はおろか天下全体が穏やかなだけでなく元禄と同じかそれ以上の爛熟を迎え化政文化が花咲いた。民達は暮らしを楽しみ日本の黄金時代の一つと言ってよかった。家斉の政がかなり放埒なものであってもその爛熟を支えた一つであったことも事実であろう。そう考えると彼を一概に批判出来ないのではないか。そうも思う次第である。
大奥 完
2016・12・20
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