第一章
[2]次話
大奥
将軍徳川家斉はとかく江戸の町人達の話題の種になっていた、それは随分と艶のあるものだった。
「まただな」
「ああ、まただな」
「お子が出来たらしいな」
「これで何人か」
「ご正室に加え十五人の側室の方がおられる」
「そしてまたお子がお生まれになった」
「励まれるのう」
子作りにというのだ。
「これまた」
「一体何人の子がおられるか」
「わからぬな」
「いやはや、絶倫な方じゃ」
「あやかりたいわ」
「少し位な」
江戸の民達はそんな将軍のことを笑って話した。とかくだ。
家斉は非常に子沢山で何十人もの子がいて次から次に子をもうけていた。そして江戸の民達はそんな家斉のことを笑って話していた。
「何でもオットセイのあれを粉にしてな」
「そうして飲んでおられるらしいな」
「そのうえで夜に励まれておられる」
「多くの奥方様方相手にな」
「そこまでされるか」
「余程夜がお好きなのじゃな」
「子作りに励まれる為に」
「そうされておるのだな」
何かとだ、家斉の子沢山の話をする。そしてだ。
この話は家斉自身の耳に入った、彼は大奥でそこにいる女房達からその話を聞かされたが笑って言うのだった。
「ははは、そうか民達がか」
「その様に話しています」
「上様のことを」
「女好きだの何だのと」
「とかくです」
「その通りじゃ」
まさにとだ、家斉は話す女房達に返した。
「全く以てな、だからな」
「それで、ですか」
「そうしたことはよい」
「上様のことをそう言われても」
「別にですか」
「根も葉もないことでもご政道をあからさまに悪く言ったことでもない」
だからだというのだ、幕府も歌舞伎等で時代や人を変えての幕府への政治への批判は黙認している。忠臣蔵がその代表だ。
「ならな」
「よいのですか」
「悪いことでもないから」
「だからですか」
「そうじゃ、確かにわしは女好きじゃ」
自分でも言うのだった。
「とにかく夜が楽しみじゃ」
「オットセイの粉を飲まれ」
「そしてですね」
「今もですね」
「うむ、この二つじゃ」
家斉はこの時食事の後の酒を飲んでいた。右手には漆塗の盃と酒があるが。
前の膳には二つのものがあった。それは生姜と白い細長く切られたものだった。家斉はこの二つについても言った。
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