第六章
[8]前話
「望まれているのですね」
「今は」
「お話に聞いたのとまことにです」
ボルトワは自分から言った。
「違っていて」
「驚かれていますね」
「今も精力的に書かれ不道徳の極みのことを主張しておられると」
思っていたのだ、病院の中にいるので流石に実行は出来なくともだ。
「思っていましたが」
「それがです」
「違ったのですね」
「はい、あの様に」
「そうですか」
「そしてです」
医師はボルトワにも話した。
「先程お話した通りです」
「お亡くなりになられることを」
ボルトワも侯爵を気遣ってこう言った。
「望まれているだけですね」
「そうなのです」
「また随分と変わられましたね」
「人は誰でもお若い頃からお歳を召されると」
「変わるのですね」
「そうです、そのことは侯爵様も同じで」
それでというのだ。
「あの様になられています」
「そうですか」
「おわかりになられましたか」
「はい」
ボルトワは医師に答えた。
「驚いていますが」
「そうですね、やはり」
「噂に聞いていた侯爵様は事実でも」
「今の侯爵様はあの様な方です」
そうなってしまったというのだ。
「そのことをおわかりになって幸いです」
「わかりました」
ボルトワは医師の言葉にも頷いた、そのうえでだった。
彼は医師とも別れた、そしてアルトネと共に帰路についた、その道の馬車の中でだ。彼は師に対して深く考える顔で言った。
「まさかです」
「侯爵様があの様になられているとはですね」
「想像もしていませんでした」
「私もです、まさに別人でしたね」
「まことに」
「人は変わるものですが」
それでもとだ、アルトネも自分達が見た侯爵のことを思い出しつつ述べた。
「ですが」
「あそこまでとは」
「思いませんでしたね」
「まことに」
ボルトワは神妙な顔で応えた。
「想像もしていませんでした」
「全くです、ですが侯爵様は」
「あの様になられて」
「ああしたお考えになっています」
「それは事実ですね」
紛れもないだ。
「そういうことですね」
「左様ですね、ではリヨンに戻れば」
「はい、これまで通り神にお仕えして」
「務めていきましょう」
こう二人で話してだ、そのうえでリヨンに戻り実際にこれまで通りの仕事に励んだ。そして後に侯爵が亡くなりその臨終の言葉のことも聞いて言うのだった。
「今のあの方らしい」
「そうしたお言葉ですね」
「あの時言われた通りにされましたね」
「まことに」
二人は侯爵のことを思い言うのだった、そして無神論者である侯爵にあえて冥福を祈るのだった。
太った老人 完
2016・12・16
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