第五章
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「それからだけでも解放されたくてだ」
「私達が来てもですか」
「話すのだ」
そうしているというのだ。
「誰でもな」
「そうなのですか」
「私は近いうちに死ぬ」
こうも言ったのだった。
「その時も君達と同じ者達を呼ぶつもりだ」
「神の僕を」
「そして話を聞いてもらう、墓のことも話す」
それのこともというのだ。
「そのこともな」
「そのこともですか」
「我々の誰かにお話をされますか」
「そうしたい、そしてだ」
ここでまた言った侯爵だった。
「私のことなぞだ」
「侯爵様の」
「ご自身のことを」
「誰も忘れて欲しい、消えたとだ」
その様にというのだ。
「思って欲しい、誰もな」
「そうなのですか」
「その様に思われていますか」
「そうだ、私は消え去りたい」
完全にというのだ。
「墓の上に草木でもあってな、そうして忘れて欲しい」
「そうですか」
「それでは」
「そのことを告げる為に呼ぶ、最後にもだ」
侯爵は低い今にも消えそうな声で二人に話した。
「そうする」
「ですか、その様にされて」
「この世を去られますか」
「そう考えている、ここまで話してだ」
侯爵は一旦言葉を止めてだ、二人に言った。
「疲れた、だからな」
「ではこれで」
「我々は」
「休ませてもらう」
侯爵はこれで言葉を止めた、そしてだった。
ベンチから立ち上がって二人に短く別れを告げてから何処かへと去った、医師も侯爵に一礼してから二人に話した。
「ご自身のお部屋に戻られました」
「そうですか」
医師にアルトネが応えた。
「そうされたのですか」
「はい、そしてです」
「今の侯爵様はですね」
「あの様な方です」
「聞いていた話とは」
「お若い頃は確かにそうでしたが」
しかしというのだ。
「今はです」
「あの様にですか」
「穏やかに過ごされています」
「小説もですか」
「書かれていません」
今はというのだ。
「そちらももう書く気がです」
「ないのですか」
「最早と言われています」
「そうですか」
「あの様にお一人で過ごされることが多く」
そしてというのだ。
「人が来られたらお話されるだけです」
「私共神の僕でもですね」
「そうです、確かに以前は教会もお嫌いでしたが」
侯爵の教会嫌いはとかく有名だった、そしてそのことも批判の原材料の一つだった。
「今は教会の方でもお話されます」
「そうなのですね」
「そしてです」
「お亡くなりになられることを」
アルトネは侯爵が無神論者であることから神に召されるとはあえて言わなかった、彼のことを気遣ってそうしたのだ。
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