第四章
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「そうなのか」
「左様です」
「わかった」
これが侯爵の返事だった。
「私に聞きたいことがあれば何でも話そう」
「それでは」
医師は侯爵に応えてだ、二人の後ろに下がった。そのうえで二人と侯爵が話しやすいようにしたのだった。
まずは挨拶をしてだった、ボルトワが侯爵に尋ねた。
「侯爵は私共は」
「聖職者はだね」
「お嫌いでしたね」
「今も嫌いだ」
侯爵は重そうな瞼の顔で言った、顔も太り皮膚もたるみ肖像画にある美貌の顔とは何もかもが違う様に見える。
「そして神もだ」
「信じておられないですか」
「そうだ、しかしだ」
「しかし?」
「私は疲れたのだ」
だからだというのだ。
「それでだ」
「今の様にですか」
「そうだ、君達が来たならだ」
それならというのだ。
「聖職者でも話を聞いてもらいたいのだ」
「そうなのですか」
「私の話をな」
「といいますと」
「君達は誰の話でも聞いてくれるな」
「それが務めですから」
神の僕の心構えからだ、ボルトワは侯爵に答えた。
「是非共」
「そうだな、私は牢獄と病院に長くいてだ」
侯爵はその疲れきった声でさらに話した。
「家族とも離縁され金もなくなり誰からも顧みられなくなった」
「そうだったのですか」
「長い間な、長い孤独だった」
己の身の上を語るのだった。
「確かに神を信じてはいない、そしてこの世の倫理の全てはだ」
「神に基づく」
「全て忌々しいものに思ってきていてだ」
侯爵はさらに言った。
「今もだ、しかし孤独はだ」
「それはですか」
「私を苛んできた、その長い孤独にだ」
「耐えられなくなったのですか」
「何もかもがいいと思う様にもなった」
自暴自棄、その中に陥ったこともというのだ。
「あった、それにだ」
「さらにですか」
「何もかもがなくなったのだ、富も地位も肉欲の相手もだ」
「牢獄と病院の中で」
「言ったな、家族に離縁されたと」
侯爵はボルトワにまたこのことを話した。
「そうだったな」
「はい、確かに」
「肉欲を強いていた妻も女達もいなくなり息子には財産の全てを奪われた、革命もあったな」
「それでもですか」
「私は奪われ孤独に追いやられた、そして今まで一人でいてだ」
「そうしてですか」
「もう疲れきった、最後位は孤独からだ」
彼を苛むそれからというのだ。
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