第一章
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太った老人
マルキ=ド=サド侯爵と聞いてだ、リヨンの若い司教フランソワ=ボルトワは顔を顰めさせそのうえで彼の教師であり上司でもあるそのリヨンの大司教ジョセフ=アルトネに整った青い目が印象的な顔で言った。
「あの有名な」
「そうです、ドナスィヤン=アルフォンス=フランソワ=ド=サド氏です」
「死刑になったのでは」
「いえ、なっていないです」
「火刑になったと聞いていました」
ボルトワは真剣な顔でアルトネに言った、師の深い皺が刻まれた鷲鼻の顔を見て。
「そうでなかったのですね」
「あれは革命前のことでして」
「そうだったのですか」
「その時侯爵は確かに死刑判決を受けました」
このことは事実だというのだ。
「そのご乱行により」
「しかしですか」
「他国に奥方の妹君と駆け落ちをされていたので」
「ご本人は死刑にはなっていませんか」
「肖像画が火刑となりました」
「それで助かっていたのですか」
「はい」
侯爵自身はというのだ。
「そうなっていました、ですがそれからも乱行を続けられ」
「相当だったそうで」
「あらゆる背徳を犯していました」
その背徳たるや想像を絶するものであった、さながらカリギュラの様なこの世の誰もが聞いて震え上がるものであったのだ。
「その罪により投獄されていました」
「そうだったのですか」
「そして今は病院におられます」
「死刑ではなく」
「皇帝がそうされたのです」
ナポレオンのことだ、彼自身が命じたのだ。
「侯爵様が獄中で書かれた小説を読まれ激怒され」
「死刑ではなくですか」
「はい、投獄されていたのです」
そうだったというのだ。
「そこが違います」
「そうでしたか」
「それでなのですが」
あらためてだ、アルトネはボルトワに問うた。彼の若い美貌の顔を見つつ。
「司教は侯爵についてどう思われますか」
「恐ろしい方と思っています」
生真面目なボルトワは師にすぐに強い声で答えた。
「この世の方とは思えないまでの」
「あらゆる背徳の罪を犯した」
「そうした方とです」
「私もそう思います、しかもあの方は神を信じておられません」
「ジャコバン派と同じですか」
「そうした意味ではそうです」
ジャコバン派も多くは無神論であった、実を言うと皇帝のナポレオン自身がジャコバン派に近い。だから一時期ローマ教皇とも不仲であった。
「あのj方も」
「背徳の限りを尽くし神を信じない」
「悪魔の如きですね」
「そうした方に思いますが、ただ」
「ただとは」
「私は侯爵殿の肖像画を見たことがあります」
ボルトワはアルトネにこうも言った。
「細面で整ったお顔立ちですね」
「そのことでも有名でした」
「そうだったのです
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