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赤舌
第四章
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「よいことじゃ、ではな」
「今のうちにですな」
「井戸を」
「掘ろうぞ」
 こうしてだ、井戸掘りの者達を待つのだった。だがその間にだ。
 幸い大雨が降った、雨は三日の間降り続き川も甕も田も水で満たした。これで危ういところは逃れられた。
 代官もその雨に喜んでだ、こう言った。
「助かったわ」
「ですな、雨が降り」
「何とかです」
「助かりましたな」
「全くじゃ、それでじゃが」
 代官は周りの者達にさらに言った。
「井戸はな」
「はい、またこうなった時に備えて」
「掘ってはおきますな」
「それも多く」
「それは忘れぬ」
 決してというのだ。
「こうした旱魃はなくならぬ」
「ですな、もうならないとは言えませぬ」
「だからその時に備えて」
「今からですな」
「掘っておく」
「そうしますな」
「そうする、それであのあやかしじゃが」
 代官は水門のところにいたそのものの話もした。
「今はどうしておる」
「それがです」
 若い侍が代官に答えた。
「雨が降るとです」
「それでか」
「いなくなったとか」
「そうなのか」
「それも煙の様に」
 いなくなったというのだ。
「これが」
「それはまた面妖なことじゃな」
「そう思いますと」
「うむ、あれはやはりな」
 代官は若い侍に言った。
「あやかしであるな」
「やはりそうですか」
「熊に似ておったが熊より大きかったしな」
 それもずっとだ。
「異様に口が大きく赤かった」
「舌も」
「ああした獣はおらぬ」  
 代官は言い切った。
「急に出て来て雨が降ると消えた」
「そう考えますと」
「やはりですな」
「あれはあやかしですか」
「そうしたものですか」
「そうとしか思えぬ。しかしそのあやしのお陰でじゃ」
 代官は代官所の者達に言った。
「水を巡っての村同士の争いが止められた」
「ではあのあやかしは止めたかったのですな」
「村人達の争いを」
「だからこそあそこにいた」
「雨が降るまで」
「そうやもな、何はともあれ助けられた」
 代官は穏やかに喜んでいる声で述べた。
「あやかしにな」
「そうしたあやかしもいるといいますが」
「悪さをする者だけでなく」
「人を助けるあやかしもいると聞いていましたが」
「実際にでしたな」
「そうじゃな。このことは書き残しておこう」
 こう言って実際にだ、代官はこのあやかしのことを書き残した。井戸を掘らせてこれからのことに備えると共に。
 この話は代官の手によってか津軽に伝わっている、何はともあれ村人達の争いはこの妖怪に止められた。妖怪の名はその舌が赤いことから赤舌と呼ばれている。時としてその外見から恐ろしい妖怪とされるがこうした話もある。面白い話と思いここに書き残した。

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