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水車
第八章

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「そんなにいいかなら」
「特に不思議でもないけれど」
「珍しいものでもないのに」
「東京じゃないっていうから」
 彼女のその話を思いだしつつ話す。
「田んぼも畑も」
「トラクターとかもないみたいだね」
「虫も少ない」
「どんなのかな」
 首を傾げさせてだ、二人で話した。
「そっちの方が珍しいよね」
「そうそう、お話を聞いてると」
「東京って不思議な場所だよ」
「想像出来ないよ」
 長野にいる彼等からはだ。
「近くに山もないっていうし」
「小川も違うっていうし」
「一体どんな場所なのかな」
「漫画とかテレビじゃ見るけれど」
 その東京をだ。
「あんな感じなのかな」
「やっぱりビルが多くて」
「それで賑やかで」
「人も車も多い」
「そんな場所?」
「そうなのかな」 
 二人で話す、しかし結局二人は東京がどんな場所か今一つわからないままだ。それぞれの家に帰った。
 桐子は暫く長野にいたがやがて東京に帰った、二人にまた来年と言ってそのうえで両親が運転する車に乗って長野から東京に帰った。
 二人は桐子が帰ってから彼女とよく一緒にいた水車小屋において話をした、外からは水車の音が聞こえてきている。
「桐子ちゃん帰ったね」
「うん、東京にね」
「人ばかりっていう」
「田んぼも水車もない場所に」
「ここえらく気に入ってたけれどね」
「東京にはないからって言って」
 そうしてというのだ。
「物凄く好きだったね」
「ここが」 
 彼等にとっては日常の中にある水車小屋がだ。
「僕達も東京にいればそう思うのかな」
「水車が珍しいって」
「この水車小屋も」
「そうなるのかな」
 二人はどうにもわからなかった、そのことが。
 だがそれと共にだ、宗則は拓哉にこう言った。
「水車も減ったっていうし」
「お祖父ちゃん達が言うにはね」
「それじゃあこの水車も水車小屋も」
「何時かなくなるのかな」
「牛や馬がいなくなったっていうし」
「田んぼも減ったっていうから」
 畑やそうしたものもだ。
「じゃあね」
「そうしたものが減って」
「そして水車も水車小屋も」
「なくなるのかな」 
 二人にとってはこのことも想像出来なかった、だが二人はこの言葉を大人になってわかった。二人が桐子と共にいた水車小屋、そこにある水車も取り壊されたのを見て。


水車   完


                        2016・11・21
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