第五章
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「いないわ」
「あっ、それ蝗だよ」
「バッタの仲間だけれどまた違うよ」
二人はそこはすぐに言った。
「バッタの仲間っていっても色々で」
「蝗もそのうちの一つなんだ」
「バッタと蝗はね」
「少し違うんだ」
「そうだったの、これは蝗なの」
桐子は足元を跳ぶ蝗を見つつ二人に応えた。
「そうだったのね」
「うん、そうだよ」
「これは蝗だよ」
「バッタの仲間だけれどまた違うからね」
「覚えておいてね」
「ええ、わかったわ」
桐子は二人ににこりと笑って応えた。
「東京にはこんなに虫いないのよね」
「ここじゃ一杯いるけれどね」
「蜻蛉やバッタもね」
「他にも色々な虫いて」
「獲り放題だけれどね」
「そんなに虫がいるなんてね、私虫は好きでも嫌いでもないけれど」
それでもというのだ。
「凄い場所ね」
「凄いかな」
「そうかな」
宗則と拓哉は桐子の今の言葉にだ、顔を見合わせた。
「ここじゃね」
「普通だよね」
「水車にしても」
「そうだよね」
「だから東京にはないから」
桐子の言葉はこのことに尽きた。
「だから凄く珍しいの」
「東京から来た娘からしてみれば」
「そうなるんだね」
「そうよ、それでだけれど」
「それで?」
「それでっていうと」
「水車も近くの水車小屋も」
その両方をというのだ。
「よく見てみたいけれど」
「今からだね」
「そうしたいんだね」
「うん、見ていいかしら」
こう二人に尋ねた。
「そうしても」
「うん、別にね」
「僕達に断らなくてもいいよ」
「僕達に普通に見てるし」
「水車小屋の中で休んだりするしね」
「水車小屋の中にも入られるの」
拓哉の今の言葉にだ、桐子は問うた。
「そうなの」
「うん、普通にね」
また普通にとだ、拓哉は桐子に答えた。
「雨宿りに使ったり中で休んだりしてるよ」
「一年の頃は基地って言ってたね」
宗則はその時のことを話した。
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