第7章 聖戦
第169話 落ちて来るのは?
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冷たい北風に打たれた瞬間、思わず上着の襟を立てて仕舞う俺。
聞いていた以上に、この季節に張り出して来る北極産まれの大気に晒された風は冷たく……むしろ痛いと表現するレベルであった。
小高い丘から見渡す限り、この季節に相応しい白と言う色に覆われた世界。西洋風剣と魔法の世界に相応しく現実感のない、妙にファンタジーじみた景色を見つめながら、少し愚痴めいた思考に囚われる俺。
視線の続く限り、遙か彼方まで見渡せるなだらかな地形。北に三キロほど向かった先にあるはずの城塞都市の姿は、流石にここからは見えず――
僅かに視線を上げる俺。其処には……。
木々の梢に所々遮られながらも自己の存在を主張するかのような、冬のヨーロッパに相応しい重く垂れこめた雲。陰鬱な氷空と冷たい風。そして、一面白銀に支配された世界となっているこの場所。
何処か、その辺りの吹き溜まりから雪の化身や冬の妖精でも現われて来そうな、そんな気さえして来る。
長く冷たい冬と言う季節は物語や伝承を産み出す土壌としては最良の物なのだろう。そう柄にもない事を考えていた刹那、
「何か見えますかな?」
普段、俺の周りではあまり聞く事のない、僅かな錆を含んだ重厚な男性の声が掛けられる。
声の発せられた方向……少し後方を顧みた俺。その視界に、ゆっくりと丘を下って来る男性が映った。
精悍な、と言う表現がもっともしっくり来るその表情。
西欧人に多い彫の深い顔立ち。この辺りはハルケギニアにやって来てから良く出会うタイプの男性と言う感じであろうか。
枯葉色の髪の毛。引き締まった口元。ハシバミ色の鋭い瞳。ハルケギニアでは最近まで流行していたカイゼル髭はなし。身長は俺よりも少し低い感じなので、百七十センチ台半ばから後半までの間ぐらい。骨格自体が東洋人のソレと比べると太く、かなりがっしりとした身体付き。しかし、服の上からだけでも無駄な贅肉がひとつも付いていない事が分かる。
年齢はジョゼフより少し上……と言う程度だったと思うので、四十代後半から五十代前半ぐらい。そろそろ前線の指揮官からは引退する時期が来た頃と言う感じか。
何か特別な景色が見える……と言う訳ではありませんが。そう前置きをした後に、
「こんな理由で訪れているのでなければ、もう少し気分も晴れやかなのでしょうね」
そう言葉を続ける俺。
そう。リュティスからなだらかに続く平原。父なるラインの流れはここからでは見る事も感じる事も出来ない。ただ、本来ならぶどうの産地らしい様子が見えたとしても不思議ではないのだが、今日のこの地は森や川も白く染まった幻想的な風景。西日本の太平洋岸で暮らして来た俺に取って、この一面の銀世界と言う空間は、ただそれだけで心躍る空間となる。
……はずなのだが。
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